InstagramやTwitter、LINE、TikTokなど、今や企業のマーケティングにも欠かせないツールとなっているSNS。
2021年に入ってからは音声SNSのclubhouseが話題になったり、Twitterが音声会話サービス「スペース」を実装したりと、SNSは日々変化し続けています。 ⇒「話題急上昇のclubhouseとは?」
そんな中で6月初旬、写真SNSアプリ「Dispo」が日本に本格進出するというニュースがありました。本格リリースに向けてこれまでの招待制を廃止したことで、だれでもすぐに使い始められるようになり、ユーザー登録者数が急増したそうです。
写真SNSではInstagramがすでに不動の地位を築いている現状で、なぜ今新しい写真SNSアプリが登場し、注目されているのか。Dispoの特徴を解説しながら、SNSを取り巻く近況を考察していきたいと思います。
「Dispo(ディスポ)」とは?
写真SNSアプリ「Dispo(ディスポ)」
Dispoは「Disposable=使い捨て」の略で、使い捨てカメラ、インスタントフィルムカメラから着想を得た写真SNSアプリです。
最大の特徴は、撮った写真が表示されるのは翌日朝9時、ということ。Dispoのアプリ内のカメラを使って撮影した写真は、フィルムカメラの現像を待つように、翌日にならないと自分でチェックもできない仕様になっています。
- 翌朝現像できるまで、どんな写真が撮れているのか見えない
- その写真は、加工できない「撮って出し」状態でアップされる
このように、フィルムカメラで撮った写真を現像して初めて確認できる、という昔ながらのアクションを再現しています。
既存のInstagramなどで見られるような、何度も撮り直して加工・編集をした映えるお気に入りの一枚をその場でアップする流れとは、真逆のアプローチになっているのがDispoの最大の特徴です。
Dispoの遊び方の流れ
- アプリのカメラで写真を撮る
- 翌日の朝9時に写真が見られるようになる
- 任意のカメラロールを選んで公開する
- そのカメラロールを共有している人も写真を閲覧できるようになる
DispoもInstagramと同じように、撮った写真を投稿するSNSです。
しかし上記のように写真の現像にタイムラグがあり、写真加工もできないいわゆる「撮って出し」写真をアップするところがポイント。公開できる写真も、Dispoのアプリ内カメラで撮ったものだけです。
そして、このアプリを楽しむポイントは「カメラロール」。
複数のカメラロールを作成でき、それらを公開/非公開設定できます。公開設定にしたカメラロールは、閲覧・投稿許可をした他のユーザーとシェアできます。例えば「青い空」というカメラロールを作成し、複数人でシェアすることで、自分以外のユーザーも、それぞれが撮影した空の写真を投稿することができるので、共通のアルバムとして眺められます。
SNSの機能としても最小限で、広く多くの人に情報を発信するというより、周囲の友人同士と日常の写真をシェアするような、ミニマムなコミュニティが形成されています。
もちろん、Instagramなどと同じく、写真への「いいね」やコメントもできますが、実際に使っているユーザーいわく「特にお互いいいねをしたりするわけでもない。しなきゃいけない雰囲気もないので気楽」とのことでした。
「Dispo」を愛用するユーザーの気持ち
「Dispo」を愛用するユーザーの気持ち
そんなDispoを使うユーザーは、どんな目的でアプリを使っているのでしょうか?
実際に2月からDispoのβ版を愛用しているというトランス社員のEさんに聞いてみました。
トランス社員・Eさんの場合
【Dispoのいいところ】
- 撮った写真のレトロな質感
- 撮ってすぐには見られないドキドキ感
- 現像を待つ時間があるので、執着しすぎない(そんなアプリの突き放した感じ)
- フォロー稼ぎを必要としないSNSという在り方
- スマホの容量を気にせず友人と写真をシェアできる共有カメラロールとして使えるところ
「最近SNSに載せられる写真は加工ばかりでInstagramとかは綺麗な盛れている写真を載せなきゃ感(人によってはハードルが高く劣等感が生まれる)が凄いと感じています。
一方で、Dispoは加工が出来ず、Dispoで撮ったものしか載せられないのでSNSのマウント合戦みたいなのは少ない気がしてます。カメラ機材や加工技術でなくその一瞬を切り取った自然のエモさというか、時代に逆行する感じが好きです。Dispoではありませんが、アナログ写真のようにレトロな質感で写真が撮れるHUJI Camもカメラアプリとしてお気に入りです。」
Dispoを愛用しているEさんは、出かけた先の風景や、寺社仏閣、庭先など身近なものを写真に収めています。
SNSなのでやはり他の人のアカウントとつながる必要があるので、まずは身近な友人同士で始めてみるといいかも、とのこと。つながった人たちと共有のアルバムを作っていく楽しみ方や、恋人同士で二人だけの共有アルバムを作って思い出をまとめていく、なんて使い方もあるそうです。
Eさんの場合は、いいねやコメントをし合わなくてもOKで、マイペースに写真を上げたり眺めたりできる雰囲気が特に気に入っているとのことでした。
背景にあるのはSNS疲れ
このように、実際にDispoを愛用している人の声を聞くと、いくつかのヒントが垣間見えます。
レトロな写真の質感
Dispoのアプリ内カメラで撮った画像には、現像した紙焼き写真のようなじっとりしたレトロな質感があります。
先述したEさんもそういった写真の質感を気に入って、Dispo以外にカメラアプリとして「Huji Cam」も愛用しているとのことでした。使い捨てフィルムカメラ「写ルンです」がレトロブームで再度注目されていることもあり、昨今のレトロブームとも遠からぬ関係性を感じますよね。
SNSに執着させないスタイル
Dispoは、ノータイムでSNSアップできないというアナログ時代のようなタイムラグがあり、撮ってから一晩おいて、翌朝9時にやっと写真を見ることができます。
まるで写真を撮ってから写真屋さんに現像に出しに行く必要があった昔のような、ゆっくりした時間の流れを思い出します。
そしてこの感覚は、現在の10、20代にとっては初めての新鮮な感覚でもあります。
またそれらの写真は、美肌カメラアプリでフォトジェニックに盛った姿ではなく、いわゆる「撮って出し」です。Dispo内で公開する際も、あとからのレタッチやフィルターをかけることもできません。
気負わない投稿
InstagramやTwitterを頻繁に使う人は、インフルエンサーや著名人でなくともアカウントのフォロワー数やいいね数を重視しすぎ、少しでも反応を増やそうと躍起になってしまいがちです。そういったSNS疲れから、Dispoのように他人からの評価を気にしないコミュニティで、自身の感じたありのままを映し出す自由なSNSを求めていた人は少なくないのでしょう。
InstagramやTwitter、TikTokなど今主流のSNSでは、数の多いもの勝ち、反応の多いもの勝ちという雰囲気がユーザー間に蔓延していることは否めません。インフルエンサーや企業、クリエイターのように自身の宣伝・発信のためのツールとして数字を重要視することは決して間違いではありません。しかし、マイペースにSNSを楽しみたいユーザーも多く、そういった人にとっては、フラストレーションが溜まってしまっているのも確かです。Instagram側もこういったユーザー間の意識や、いいね数を競いすぎる風潮を懸念してか、投稿写真への「いいね」数の表示・非表示が管理できる機能を導入しています。
多くのWEBメディアも関連記事を出していますが、「いいね」されることに躍起になりすぎている風潮が指摘されています。フォロワーや「いいね」の数が多い=価値がある、数が少ない=価値が低い、とみなされがちな最近のSNSに対して、疲れを感じてきているユーザーは少なくないのでしょう。
Dispoはポストインスタグラムになるのか? 新鋭写真SNSもご紹介
新しいSNSとして、欧米で注目されているDispoですが、果たして日本での浸透は見込めるのでしょうか?
写真SNSアプリには不動のシェアを誇るInstagramがあります。今、その風潮の中でポストInstagramとなりうるSNSやそれに代わるコミュニケーションツールは何かを探っている人々が増えつつある状態でしょう。
これまでのSNSの盛衰を振り返る
日本でよく使われるSNSには、InstagramやTwitter、LINEなどがあります。今でこそInstagramは日本でも幅広い年代に使われ、マーケティングにも欠かせなくなったSNSですが、TwitterやLINEに比べInstagramが日本に浸透しきるのには、やや時間がかかりました。
広く不特定多数と共通の興味関心でつながるSNSがTwitter(※1)、個人間の連絡ツールとしてLINEがある中でInstagramは写真をハッシュタグで関連付けして投稿するだけで、発信側による一方通行の写真特化型です。このツールを日本のユーザーが、TwitterやLINEと使い分ける方法が出来上がるまではそれなりに時間がかかりました。Instagramの一方通行な性質を利用して、ユーザーは自分の作品や自分のライフスタイル、商品情報やレア度の高い限定公開写真などを発信します。ハッシュタグを辿れば、欲しい情報が写真一覧で可視化してザッピングできる情報収集ツールとして活用できることが広く知られるようになって、日本でも定着したのではないかと思います。
逆に、機能としての需要はあったものの、アプリ自体が浸透しきらなかったのが音声SNSのclubhouseです。日本では、異業種交流やオンラインサロンなどビジネスコミュニケーションツールとしての利用が期待されていました。(clubhouseの一時的な話題沸騰は、コロナ禍で人との会話コミュニケーションに飢えていた人が多かったことの表れとも言われています。)
2021年2月に話題が急上昇しユーザー数を増やしたclubhouseは、ビジネス関係の交流では愛用している人も多いようですが、元々本名や職業を秘匿して活動する人が多い趣味のつながりにおいては、ほとんどがclubhouseから遠のいてしまっています。それらの人々は主な活動拠点をTwitterとしていたため、その後Twitterに実装されたclubhouseにも似た音声チャット機能「スペース」を利用するようになっています。このTwitterの「スペース」は、ニコ生・YouTubeライブに代わるツールとして企業や団体アカウントが配信の場として活用するようになっています。
こういったInstagramやclubhouseの前例からも、Dispoもまた、現時点での既存のSNSに満足していない層をターゲットとできるかが注目のポイントになるかと思います。先述したように、いいねやフォロワー数を競う風潮のSNSに疲れを感じながらも、気軽に、よりクローズドに楽しめるポストInstagramなSNSを求めている層が一定数いるのは明らかです。
(※1:運営公式では、TwitterはSNSではなくミニブログと位置付けていますが、SNSとして広く認識されているので、ここではSNSと括っています。)
脱Instagramを意識した新鋭写真SNS
Dispoのほかにも、Poparazzi、BeRealといった写真SNSが欧米からリリースされています。
Poparazziは、友人が撮った自分の連続写真がGIF画像になって、タグ付けされた自分のアカウントでシェアされます。もちろんこのアプリのカメラも写真加工はほとんどできません。友人が撮った「自分の知らないありのままの自分の姿」が映し出されることから、パパラッチにかけてPoparazzi(ポパラッチ)と名付けられたそうです。
一方、BeRealは、Instagramにも実装されている15秒の短尺動画「リール」の機能を前面に押し出した写真SNSです。TikTokにも見られるようなエフェクトやほかの動画を差し込んで動画の編集ができます。アプリ名を和訳すると「Be Real」は「現実を見ろ/現実に戻れ」という意味に。
Dispoもこれら2つのSNSも、フィルムやポラロイドのようなレトロな写真画像、フィルターや美肌加工のないありのままの撮って出し写真、広い不特定多数ではなく友人や限られたコミュニティーでの評価を求めない写真シェア、などの要素が共通しています。
他にもいくつか新鋭の写真SNSアプリがありますが、これらは共通して、リリース時に「ポストインスタグラム/アンチインスタグラム」を掲げています。
Dispoに見る、SNSの今後の需要
写真SNS「Dispo」の日本本格進出のニュースリリースを受けて、昨今のSNS事情を考察してみました。
Dispoの日本進出にあたり、元テレビマンの日本人スタッフが運営に参入した、とあり、日本での本格的な進出に対する本気度が伺えます。そういった新しいSNSの登場と成長によって、既存のInstagramやTwitterとは別の、新しいマーケットを開拓できる可能性を感じている人も少なからずいる、ということでしょう。
今や、あらゆる企業のマーケティングに欠かせなくなってきているSNS。果たしてDispoは企業の新たなマーケティング手法の一つとなるのでしょうか。
トレンドの発信基地ともなっているSNSを活用するのであれば、そのSNSの使い方やユーザー心理を把握することは必須でしょう。
主流のSNS自体も、過去日本ではmixiが隆盛したのち数年でTwitterやInstagramにユーザーが流れていってしまいました。ポストInstagram、ポストTwitterとなりうるSNS今後現れるかどうかで、マーケティングも変わっていきます。
SNS需要がどんな層にどのように存在しているのか、今後も観察を続けていきたいと思いま