定期的に訪れる「レトロブーム」。
最近では、Z世代を中心に平成レトロやニュートロ、Y2Kファッションなどが注目されていました。
そんなレトロブームですが、”平成レトロ”や”昭和レトロ”のように、「レトロ」にもいろいろな種類があります。
また、ひとつのモチーフとして以前から常に一定の人気がある“明治モダン”、”大正ロマン”“昭和モダン”など、さまざまなターゲット層にさまざまな切り口のレトロがあります。今回はそんな「レトロ」について年代別にまとめて解説していきます!
年代別レトロモチーフの解説
「平成レトロ」、そして「昭和レトロ」が最近のトレンドとして注目されていますが
平成レトロの「平成」ってどの時期のこと?昭和レトロのほかに昭和モダンってあるけど、それは別?
など、そのカテゴライズがいまいちわからない、という人も多いのではないでしょうか。
ここではまず、「●●レトロ」や「●●モダン」を整理してまとめていきます。
「●●レトロ」の対象年代分け
- 平成レトロ:昭和後期~平成初期のポップなテイスト
- 昭和レトロ:昭和中期~高度経済成長のノスタルジックなテイスト
- 昭和モダン:昭和初期・戦前のクラシックで近代的なテイスト
- 大正ロマン:大正期(大正浪漫とも)の和洋折衷ハイカラなテイスト
ざっくりまとめると、上記のようなカテゴライズになります。(このほかに、明治モダン:明治~大正期の近代化・文明開化テイストとしてカテゴライズされる場合もあります)
「平成レトロ」は、韓国発のニュートロなど輸入レトロ、世界的なY2Kファッションとも関連してZ世代を中心にしたトレンドとして注目されました。直近のトレンドでは平成レトロ、昭和レトロが注目されていますが、さらに年代をさかのぼった大正ロマンや昭和モダンは、すでにブームから定番テイストのひとつとして、広い世代でファッションやデザインに取り入れられているカテゴライズです。
平成レトロ
昭和後期~平成初期(1980年代後半~1990年代)のファンシーグッズやアニメのテイスト
【キーワード】写ルンです、カセットテープ、たまごっち、ガラケー、PHSポップ書体、平成ゴシック体、ファミコン、レトロゲーム、ハイパーヨーヨー、スケルトングッズ、高橋留美子、原田治、ギャルファッション、渋谷、原宿、など
2020年頃から耳にするようになってきた、令和のレトロブームが「平成レトロ」。Z世代に広まった平成レトロブームは、Z世代が生まれる少し前、その親世代が若者時代を過ごした平成初期のアナログからデジタルに移行する過渡期のテイストやアイテムが主軸になっています。スマホやデジカメが普及する前の、フィルムカメラや「写ルンです」(レンズ付き使い捨てフィルム)、チェキなどアナログな現像写真やその写真のテイストに注目が集まりました。
当時ファンシーグッズでも多く使われた淡い蛍光色を使ったカラフルでポップなテイストのキャラクターグッズも取り沙汰され、Z世代には新鮮なものに、それより上の世代には懐かしいものとして、たびたび話題に上がりました。
(SNS上では平成初期に子供時代を過ごした世代と思われる一部のユーザーたちからは“平成レトロ”のほか“平成ポップ”、“平成ノスタルジー”と呼ぶほうがイメージに合うのでは、という意見も見かけられました。
また、同時期にY2Kファッションや、ニュートロといった海外発の1980~2000年代前半を主軸にしたレトロブーム(輸入レトロ)も、この平成レトロと同時に広まり、ファッショントレンドや推し活トレンドにも影響を与えています。
昭和レトロ
昭和中期~高度経済成長(1950~60年代)
【キーワード】昭和30年代、駄菓子屋、居酒屋、純喫茶、オート三輪、レコード、アデリアレトロ、クッピーラムネ、浅田飴、カムカムエヴリバディ、ALWAYS三丁目の夕日、東京タワー、東京下町、など
出典元:https://www.seibu-leisure.co.jp/amusementpark/arcade/index.html
戦後の高度経済成長期にあたる、1950~1960年代の昭和中期を主軸としたモチーフが「昭和レトロ」。
平成レトロに比べて、Z世代だけではなく、30~40代の世代にも親しまれているのが昭和レトロブームの特徴です。
昭和30年代の東京下町を描いた映画「ALWAYS 三丁目の夕日」(2005年公開)以降、古き良き時代・昭和へのノスタルジーが注目されるようになり、「昭和レトロ」モチーフがさまざまなところで使われるようになってきました。
現在の昭和レトロブームでは、レトロな食器ブランド「アデリアレトロ」の花柄グラス商品のヒットなど、当時のモチーフやテイスト、キャラクターを活かした新しい商品の発売が特徴的です。
昭和の時代にはおなじみだった喫茶店のパフェやクリームソーダ、それを彩る花柄グラスや足つきグラス、フーセンガムやクッピーラムネ、チェルシーなどの駄菓子や、フエキのでんぷんのりなど文房具のキャラクターは、30~40代にとっては「昔駄菓子屋で見た」「おばあちゃんの家にあった」など子供の頃の記憶の中にあるもの。こうしたキャラクターや当時のパッケージデザインを復刻再現したグッズも、広い世代で人気です。
昭和レトロは、大人世代には懐かしく、子供世代には新鮮に映り、昭和の喫茶店や居酒屋、商店街の雰囲気は、実際には当時を知らない世代でも不思議と懐かしさを感じるようです。
こうした幅広い世代に受け入れられるニーズを汲み、西武園ゆうえんちでは、2021年のリニューアルで「夕日の丘商店街」を園内に新設。約60年前の下町を再現したテーマパークは、小さな子供のいるファミリー層からZ世代まで広い世代に反響があったようです。
こぼれ話:「純喫茶」と「喫茶店」何が違うの?
昭和レトロの代名詞、喫茶店ですが、「純喫茶」と掲げているお店がありますよね。喫茶店と純喫茶、何が違うのかと言えば、現在ではほぼ同義です。実は、昭和中期まで喫茶店とは別に、今のキャバクラのような店は「カフェー」「社交喫茶」などと呼ばれていました。(そうしたカフェーの女性店員は「女給」と呼ばれていました)そうしたカフェーと混同されないように、喫茶店は「純粋に茶を喫する店」という意味で「純喫茶」と名乗るようになったとか。昔からある純喫茶は、そんな時代の面影を今も残しているのです。
昭和モダン
昭和初期・戦前(1920~1930年代)
【キーワード】モダンガール、モダニズム建築、ミュシャ、アールヌーボー、アールデコ、シャネル、パサージュ、カフェー、地下鉄、銀座、狂騒の20年代、など
昭和レトロが戦後の下町文化や大衆文化が主軸なのに対し、戦前の東京銀座など、当時の最先端モードや建築を主軸にしたモチーフが「昭和モダン」。ヨーロッパでは「花の都」パリが世界のファッション・アートの中心となり「狂騒の20年代(Rolling 20’s)」とも呼ばれ文化が成熟した時代。日本でもまた、それまでの時代の女性ではありえなかったショートカットにひざ丈スカート、ハイヒールのモダンガール(モガ)やカンカン帽やロイド眼鏡、ステッキを持ったお洒落なモダンボーイ(モボ)がファッションの最先端・銀座を闊歩し、昭和2年(1927年)に日本初の地下鉄・銀座線が開業し、都市の近代化が進んでいきます。当時頻繁に使われた言葉「モダン」とは「現代的な」の意味で、近代化が進み、文化も成熟をきわめた、戦前の昭和を代表するキーワードになります。明治大正の雰囲気も残るレトロなカフェや喫茶店のテイストは、昭和モダンなテイストとされることもあります。
このほか、化粧品メーカーの資生堂のロゴやイメージ、伝統的なヘアオイルとして知られる大島椿の椿油のパッケージデザインでは、この当時に生まれたデザインが今も使われています。
昭和モダンは、「古き良き時代のレトロでおしゃれなもの」として、特に女性向けの商品やサービスで親しみの深いモチーフとなっています。
大正ロマン
大正~昭和初期(1910~1920年代)
【キーワード】大正浪漫、ハイカラ、洋装、女学生、書生、私小説、喫茶店、和洋折衷、文化住宅、赤レンガ建築、竹久夢二、ベルエポック
文明開化により建築や文化が西洋化していった明治時代後期から大正時代には、一般庶民の生活の中にも和洋折衷様式が広がっていきます。大正時代の大きな屋敷や街中の飲食店などには、日本家屋の中にシャンデリアやソファー、テーブルが置かれており、今の「レトロなカフェ」の原型となるインテリアが多く見られるようになります。
美人画や詩歌「宵待草」で知られている画家・詩人の竹久夢二は、この大正期に活躍しました。このほかにも、夢二は浴衣のデザインなどのグラフィックデザインも手掛けており、「大正浪漫」テイストといえばファッション・アート的にも竹久夢二の作品が代表として挙げられます。
そんな「大正浪漫」が再評価されたのが1960年代。当時からすれば大正時代は40~50年前。戦後の高度経済成長で目まぐるしく社会が変わる中で、古き良き時代を懐かしんだ昭和の“レトロブーム”が大正ロマンだったようです。
その後も、少女漫画「はいからさんが通る」などでも大正時代はたびたび題材に使われ、大正ロマン=袴にブーツの女学生、人力車、和洋折衷のイメージが一般に広く知られるようになりました。
また、大正~昭和初期に建築された東京駅(丸の内口)や丸の内の三菱一号館美術館をはじめ、明治~大正に建築された赤レンガ造りの各地の博物館や美術館、私邸等は、その当時の意匠を残しつつ改築され、今もレトロな観光スポットとして愛されています。
古民家を改築した古民家カフェや、東京駅や帝国ホテルなど、建築当時のテイストをそのままに改装を施した明治・大正・昭和初期の建築物や施設は、しばしば「レトロな外観」と表現されます。
大正浪漫、昭和モダンは、平成~令和にかけて過去に何度もブームが起きていますが、今ではデザインやファッションにおけるひとつの様式・テイストとして定着してきているようです。
近年のレトロブーム
この近年では、現在10~20代のZ世代を中心に起きた平成レトロ、Y2Kファッション、ニュートロがトレンドとして注目されていました。また、そのトレンドとは別軸で、30~50代をターゲットにした昭和レトロテイストを取り入れた商品・サービスの登場も相次いでいます。
昭和レトロ:昭和30年代の雑貨やフォント、デザイン、下町情緒をモチーフにしたトレンド。「レトロかわいい」グラスや文具などのリブートが多く、子供の頃に少しだけ触れた昭和の匂いを懐かしむ30~40代にも注目され、その世代をターゲットにした昭和レトロコンセプトの居酒屋や遊園地での昭和レトロコンテンツ投入も相次いでいます。
21年開催の東京五輪、25年開催予定の大阪万博に際して、60年前の東京五輪、大阪万博の振り返りコンテンツが増えたこと、NHK大河や連続テレビ小説での3~4世代群像ドラマの放送、20~40年前のリメイクCMの急増など、この数年のリバイバルブームも、近年の昭和レトロブームの背景として考えられます。
平成レトロ:Z世代の親世代が若者だった90年代の雑貨や文化、ファッションをリブートしたブーム。Z世代にとっては生まれる前にあたり、KPOPシーンに端を発した「ニュートロ」と相まって、当時のカラフルポップな色使いやアナログ電化製品への“ノスタルジーさ”が注目されました。
ニュートロ:韓国発のNewとRetroを掛け合わせた造語。韓国ではLPやカセットなど80~90年代ノスタルジーに対して使われ、日本ではZ世代を中心とした平成レトロブームと同時期にブームの一端となりました。海外発のレトロテイストであることから、Y2Kと合わせて「輸入レトロ」と呼ばれることも。
Y2Kファッション:2000年代前後の活気のあるファッションとカルチャーをリブートした世界的ファッショントレンド。日本ではZ世代を中心に、2000年代前後の渋谷ギャルファッションを取り入れた、新たなスポーティカジュアルなトレンドになっています。
昭和レトロに対して、平成レトロやニュートロなどZ世代におけるレトロブームは、目新しいモチーフとして捉えられている側面が大きいようです。先述した昭和レトロブームに比べると、“リアルな懐かしさはないが、なんだかノスタルジーでかわいい・エモい”と感じるアイテムやテイストがファッショントレンドとして取り入れられているようです。
ターゲット層で変わる「レトロスタイル」
時代ごとに違うレトロスタイルですが、それぞれの「レトロブーム」で注目されたモチーフも変わってきます。
Y2Kブームではファッションが平成レトロではアナログテイスト、ポップカラー、雑貨やおもちゃ昭和レトロでは駄菓子屋や居酒屋の内装や書体、昭和モダン・大正ロマンでは建築やアート、インテリアといったように、ひとことにレトロといっても、着目されるものに大きな違いがあり、それぞれのレトロブームではニーズのありかた、ターゲット層も変わっていきます。
ここまで、さまざまなレトロテイストと、レトロブームについて解説して参りました。
それぞれのレトロブームには、消費者のどのような意識が働いているのか、どんな趣向が好まれているのか、それを考察していくことでニーズのヒントが見つかるのではないでしょうか。
白峯アサコ
正直に申し上げます。
学生時代、60~70年代のロックを聴いてる自分チョットカッコイイ、と思っていた時期、確かにありました。是青春也。