アイドルやアニメ、自分の好きな「推し」を愛でて応援する活動「推し活」。
推し活をする人たちの実情や心理を紐解き、推し活についての理解を深めるコラムシリーズ第4弾。
今回は、「推し活」をするオタクにとっての文字やネットスラングの在り方について推し活・オタクグッズの事例を交えながら解説&考察していきます。
「推しグラス」作りがZ世代のトレンドに
オタクと文字の関係性、と言われてもピンと来ない方も多いかもしれません。
そこでまずは「推しグラス」というZ世代を中心に流行った遊びについて紹介しながら、オタクと文字の関係性について解説をしていきたいと思います。
「推しグラス」とは?
「推しグラス」とは、TikTokをきっかけに、10代20代の女性を中心に2021年前半に流行した遊びです。
100円ショップなどに売っている無地の透明グラスに、推しの名前を油性ペンで書いたOPPテープを貼って推し色のドリンクを入れて楽しむ、という遊びです。
この遊びのポイントは2つ。
- 手作りで推しグラスを作ること
- 推しの名前だけを大きくシンプルに入れること
TikTokやインスタでは、「#推しグラス」で検索すると、手作りした推しグラスの写真や、作り方の紹介がたくさん出てきます。
【推しグラスの作り方】
1)グラスを用意する
2)スマホのメモ帳アプリなどを使って推しの名前を縦位置で表示する
3)OPPテープなど透明なテープをスマホの画面に貼って油性ペンで文字をなぞる
4)テープをスマホから剥がしてグラスに貼って推しグラスが完成!
5)グラスをフォトジェニックに撮ってSNSにアップすれば「#推しグラス」推し活が完了!
上記の作り方と作ったグラスをSNSにアップするまでが「#推しグラス」の流れです。各自手作りした推しグラスに推し色のドリンクを注いで、友達と推しの映像鑑賞会などをやればさらに完璧です。
この「推しグラス」作りは、100円ショップのものだけで、プリンターや特別な材料を使わず、プチプラで誰でも簡単に作れること、家でできること、SNSに発信するまでが一連の流れであること、がZ世代に流行った理由です。
「それの何が楽しいの?」「もっとデザイン性があったほうがいいのでは?」
傍からはそんな声も聞こえてきそうですが、この「推しグラス作り」は先述した推しグラスの特徴である「手作りであること」と「シンプルであること」に加えて、
「推しの名前が入ってるだけでも、なんかテンション上がる」という心理が働くのがポイントです。
雑な表現になってしまいましたが、「ただのグラスを使うよりちょっと楽しい」「推しの名前の入ったものを自分で作る達成感」は推し活において、とても重要です。
ここからは筆者の独断と偏見での推察になりますが、この心理は子供の頃の好きになった子の名前で相性占いする、相合傘に自分と相手の名前を落書きをして密かに嬉しくなってしまう、そんな甘酸っぱいあの気持ちに近いものではないでしょうか。
加えて推測するなら、推しグラスを楽しむ世代が「箸が転んでも可笑しいお年頃」であることもポイントです。
日常の普通のことにも敏感に反応してよく笑う、多感な思春期の子供を指す表現があるように、推しの名前、推しを連想できるアイテム、推しに関する些細な何かをちょっと目にするだけで、いくらでも盛り上がれてしまうのが若い世代の推し活。
これもまた、「推しグラス」作りがZ世代の推し活で流行った理由なのではないかと、筆者は考えています。
「推しグラス」はグッズにはなりうるのか?
ここまで推し活での「推しグラス」について解説してきましたが、ではキャラクターグッズとして「推しグラス」をグッズ商品として出したら喜ばれるのか?と疑問が沸いてくる方も多いかと思います。
実はまだ「推しグラス」と銘打ったグッズ展開の事例がとても少ないのが現状です。(トレンドになったのがつい最近なのも理由でありますが)
10~20代のZ世代をターゲットにしたコンテンツでは、推しグラスの手作りとその経過もまじえたSNS映えが重要です。
推しグラスをアイドルやZ世代に人気のアニメコンテンツでグッズ化するなら、手作りした推しグラスとあまり変わらないデザインのものをそのまま出してもそこまで喜んでもらえない危惧はあります。
そこで重要になるのは「公式でしかできない」「今しか買えない」などの付加価値でしょう。
もちろん、推しグラスをわざわざ手作りしている理由には、公式からそういうグッズが出ていないから、というのもあります。
思わずほしくなってしまうような付加価値を付ければ、推しグラスのグッズ化はファンにも喜んでもらえるのではないでしょうか。
おさえるポイントが的確なら
「さすが公式、わかってる~」と思ってもらえるグッズ製作のチャンスです。
出典元:Jリーグ公式オンラインストア
「推し活」や「推しグラス」を作る文化になじみのないターゲット層の多いコンテンツであれば、こちらも可能性はあります。
サッカーFCのサンフレッチェ広島は選手の「推しグラス」を公式グッズとして出しています。
サッカーや野球などスポーツファンの中には女性も増えてきており、推し選手のうちわやのぼり幕を作るコアなファンも多いでしょう。
ただ、未だ続くコロナ禍で直接の観戦機会が減ってしまい、こういった手作り応援グッズのお披露目もしにくくなっている現状があります。
家でのテレビや配信中継で、推しグラスでドリンクを片手に観戦を楽しむ、などおうち観戦グッズにはおすすめできるでしょう。
同じく、プロレスラーや競馬での推しウマ(※ウマ娘ではなく、競走馬)の名前とモチーフなどをあしらった推しグラス、なんていうのも喜んでもらえるのではないでしょうか。
オタク文字アクセ人気 ―オタク、文字列だけでも悶えがち
「推しグラス」の解説でご紹介したように、推し活をするオタクは「推しの名前だけでも、なんかテンション上がる」という心理が働
いて楽しむことができます。
これは、推しの名前の文字列を、ただの文字として捉えるのではなく、推しを象徴するものとして見ているから。これを、オタク的には、概念、触媒、などと表現することもあります。
推しの名前や推しのセリフの文字列だけでもハッピーになれてしまう。偶像崇拝を通り越して、姿なくとも概念だけで信仰できるしご飯3杯はいける、それがオタク。
名前だけでも悶えられるオタクですが、それは行動だけでなく、文章表現・語彙力にも表れます。
言葉や文字に敏感なオタクは、インスタ、TikTok、Twitterを通じて推し活のための情報収集だけではなく、推しに対する思いの丈をつぶやくことで、日々、新たなは言葉を生み出し続けます。
【推し活で頻出!オタク用語例】
- 尊い(とうとい)
- 手が届かないところで光り輝いている、そんな推しの存在に感動したときの言葉。
- しんどい(しんどい)
- 推しが尊すぎたり、推しの作品が美しすぎたり、悲劇的なエピソードを見たり、とにかく心が揺さぶられていっぱいいっぱいの状態の言葉。例:「新曲の歌詞が意味深すぎ、しんどい」
- 無理(むり)
- 推しの尊さ、推しの新情報などに対して、もう言葉や感想が出てこない時に漏れ出す言葉。語彙力が消失し、まともな人語を話せないほど、いっぱいいっぱいの状態。「尊い、無理、しんどい」3ワードセットで使うことも多い。
- 5000兆円(ごせんちょうえん)
- イラストレーターのケー・スワベ氏がTwitter上で「5000兆円ほしい」とつぶやいたのがきっかけ。「1億円」でも「1000兆円」でもなく、現実離れしてるのに絶妙に金額を刻んできたのがポイント。その後、本人によって「5000兆円欲しい」ロゴが作成され、Twitter上ではたびたびそのロゴが使われるようになる。基本的には「あーあ、1億円降ってこないかな~」と意味は同じ。
- 古のオタク(いにしえのおたく)
- 15~20年オタク活動をしている人々が、自身を揶揄した表現。具体的には、ダイヤルアップ・ADSL接続時代からネットで情報収集・交流を行い、ホームページビルダーで自分のHPを作っていたような現在のアラフォー・アラサー世代のこと。(関連語:インターネット老人会)
- 陰キャ(いんきゃ)
- 「陰気なキャラクター」の略。アニメキャラにも使うが、引っ込み思案で人とコミュニケーションをとるのが苦手、というタイプの人を指す。合コンとか無理です、すみません、自分陰キャなんで。(反対語:陽キャ、パリピ)
- 豆腐メンタル(とうふめんたる)
- 豆腐のようにもろく崩れやすい弱い精神のこと。元ネタは「遊戯王デュエルモンスターズ」。
- マウント
- またはマウンティング。自分のほうが立場が上だと優位性をアピールする言動に対して言う。オタク界隈で見かけるのは、推しが無名の頃から推してる(から私のほうがファンとして格上だ)と言いたい「古参マウント」、●●のファンならこのくらいの知識あって当然だし私はこのくらい勉強してる(から私のほうが格上)と言いたい「知識マウント」などがあります。元はサルなどの動物が、群れの中で自分の優位性を示す行動のことを言います。なかなかうまいこと表現している。
- ATM
- 推しのATMや財布代わりになって、推しにいくらつぎ込んでもいい、という気持ちの表れ。「私は●●のATMだから」
これらのオタク用語、元々は既存の言葉で言い表せない気持ちや状態をどうにかして表現しようとした結果、爆誕した言葉が多くあります。生み出されたオタク用語はJK用語や各業界の専門用語などと混ざり合い進化します。
中には、その後ネットスラングとして定着した言葉も数多くあります。(そもそも「オタク」も「推し」もスラングのようなものです)SNSでは普通に使われるネット用語になったものもの多くあります。(逆に、知られつつも誰も使わなくなり死語となった「萌え~」などもあります。)
10代に人気のオタク用語文字アクセの事例
ティーン向けファッション雑貨で人気のサンキューマートからは、そんなオタク用語をリングにしたグッズが出ています。今、実はZ世代のオタクにはオタク用語・推し活ワードをそのままアクセサリーにした文字アクセシリーズが密かに人気です。
オタクは想像力(あるいは妄想力)に長け、感受性が高い人が多い傾向があります。ほんの少しのことでも積極的に物事を楽しみ、楽しみ方を開発して膨らませていくことができます。推しに関することならなんでもテンションが上がって盛り上がれる、それは思春期の10代に限らず、推し活するオタクの多くが身に付けているスキルとも言えます。
(こういった姿勢を「自家発電」「自給自足」「家内制手工業」などと表現することもあります。)
名言迷言セリフチャーム ーオタク、パワーワード好みがち
ネット創成期から、大喜利や言葉遊びが得意なオタク文化。
サラリーマン川柳に並ぶ「オタク川柳」コンテストにも見られるように、敏感な感受性と現実への哀愁を壮大に表現するウィットな言葉遊びがオタク特有のパワーワードを生み出しています。
【名言・迷言だらけ!オタク誇大表現集】
- 優勝
- 試合で優勝したときのように「とても幸せ」「最高に盛り上がる」を日常的なあらゆる事象に対して使う表現。例:「今日の夕飯は餃子とビールで優勝します」「推しにファンサされた私もう一生優勝だわ」
- 全人類見て
- 自分が素晴らしいと思ったものをより多くの人にも見てほしいと勧めるときに使う誇大表現。似た表現に、ハリウッド映画の宣伝に昔よくあった「全米が泣いた」をもじった「全俺が泣いた」もある。(さらに派生表現も多数あり)
- 国宝級の●●
- 人間国宝にしてほしいくらい、推しが尊い、貴いときに使われる表現。例:「国宝級の顔面」
- 全財産つぎ込んでいい・言い値で買う
- オタク、推しに対しては財布の紐がゆるい。むしろ紐がない、そんな表現
- もう●万回は言ってるけど
- 推しの魅力や自分の主張を、しつこく何度でも言いたいときに使う枕詞のようなもの。●の部分は数字や、数学で使う自然数「n」が入ることもある。
- 親の顔より見た●●
- 子供の頃にずっと見ていた親の顔よりよく見ているもの、に対して使う。推しの顔は一日何時間でも見ていられますからね。元ネタはニコニコ動画でのコメントで使われていた「親の顔より見た光景」。(関連ワード:「実家のような安心感」)
パワーワードをそのままグッズにしてしまった事例
上の事例は、ボディビル大会で、コンテスト出場者に向けてかけられる掛け声語録をそのままモチーフにしたラバーチャームキーホルダー。全8種類のガチャ商品として販売されています。
- 肩メロン!・腹筋チョコモナカ
- 土台が違う土台が!
- マッチョの満員電車だな
- そこまで仕上げるために眠れない夜もあっただろうに
- お尻にバタフライ
- 腹斜筋で大根すりおろしたい
これらの掛け声は、出場者のテンションを上げるための声援です。たまに耳にする「キレてるキレてる!!」もその一つ。
本来、面白さ・ウケ狙いではなく、あくまでも出場者(の筋肉)を鼓舞し、賛美するために夢中になった結果繰り出されたフレーズですが、そのパワーワードっぷりがTwitterでも話題になりました。そんなパワーワードがそのままグッズ商品化したことで、それがまたTwitterで話題になりました。
(Twitter上ではもともと、オタク系とボディビルやマッスル系のユーザーは、一つのことに打ち込むストイックさ、探求心などが共通しているためか親和性があります。インドアなオタクが筋トレをしてインドアなマッチョになったり、アニオタでコスプレイヤーのボディビルダーがテレビに出演して人気を獲得したりと、異種格闘技戦のような様相を呈しています。)
推し活グッズのヒントはパワーワードにあり
今回はZ世代の間で流行った「推しグラス」と、オタク用語・パワーワードを活用したグッズの事例を紹介してきました。
その背景には、オタクならではの想像力と特有の語彙表現力・感受性が大きく関わっています。
推し活というのは、推しを応援するだけではなく
推しを応援して楽しんでいる自分自身を表現・発信する行動も含まれています。
その発信の場がTwitterやInstagram、TikTokといったSNSです。
SNS上で日々生み出されるパワーワード、オタク用語は推し活そのもののトレンドを体現していると言えます。
これらのパワーワードをおさえておくことは、グッズを企画製作する際のデザイン・コンセプト・キャッチフレーズ作りでも、とても有効です。
「なぜこれが流行っているんだろう?」「この元ネタは?」そんな推し活トレンドへの疑問を解決できれば、人気の秘密やファンの気持ちが理解でき、「さすが、わかってる~」と言ってもらえるグッズが作れるはずです。
コラム【推し活事情を学ぶ】シリーズ
推し活事情を学ぶ①推し活って何するの?編
推し活事情を学ぶ②アイドルグッズ考察
推し活事情を学ぶ③今どきアクスタ事情
推し活を学ぶ⑤オタクの女子会近況編|ホテルの推し活宿泊プラン
推し活事情を学ぶ⑥推し活定番「ぬいぐるみ収納ポーチ」|小さき命「推しぬい」とオタク
推し活事情を学ぶ⑥推し活定番「ぬいぐるみ収納ポーチ」|小さき命「推しぬい」とオタク
推し活事情を学ぶ⑦推しを守るグッズ集|進化系アクスタ収納アイテム
推し活事情を学ぶ⑧最新痛バッグ|今どき推し活は「“痛くない”痛バッグ」
推し活事情を学ぶ⑨推しキーホルダー研究|カスタマイズして作る推しグッズ
推し活事情を学ぶ⑩フラッグ・硬質ケース・バルーンフラワー|イマドキ推し活「新・三種の神器」
推し活事情を学ぶ⑪作中登場・アイテム再現グッズ|大人オタクに刺さる「ごっこ遊び」グッズ
推し活事情を学ぶ⑫推しピクニック(ヲタピク)|仲間と楽しむアウトドア推し活
推し活事情を学ぶ⑬推し活写真(フォト)|ぬい撮り・アクスタ撮影の基本
推し活事情を学ぶ⑭ヌン茶・ヌン活|推し活×アフタヌーンティーがSNSで話題♪
推し活事情を学ぶ⑮【推し活インタビュー】オタクに推し活状況を聞いてみた『歌い手編』
推し活事情を学ぶ⑯本人不在の誕生日会(生誕祭)|お店や自宅で推しの生誕をお祝い♪
【推し活インタビュー】推し活事情を学ぶ⑰オタクに推し活状況を聞いてみた『2.5次元舞台編』
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推し活事情を学ぶ⑲推し色とは?|切っても切れない推し活×色の関係
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推し活事情を学ぶ㉓「推し部屋」自分と推しだけの特別な空間を作る
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白峯アサコ
書道家の方が書かれる毛筆書ってどうしてあんなにテンションが上がるんでしょうか。
いつか自分の名前を、書道家の方に書いてもらいたい。あわよくばPSDデータにしたい。
ついでに推しの名前も一筆書いてもらいたい。ちょっとした夢です。