ファンコミュニティサービスとは
企業や個人(ミュージシャン、インフルエンサーほか)などのファンの集まりを「ファンコミュニティ」といい、ファンコミュニティ用の場を構築するWeb上のプラットフォームを「ファンコミュニティサービス」といいます。
また、企業による自社のファンコミュニティ用のサイトは「ファンコミュニティサイト」と呼ばれています。
いずれも企業など提供する側とそのファン、あるいはファン同士が交流できることが大きな特徴です。
月額料金が設定されているファンコミュニティサービスも多く、有料会員ならでは限定的なサービスを受けることができます。
ファンコミュニティの主な目的は次の通りです。
- ファン(ユーザー)の声の把握、商品開発へのフィードバックなど
- ファンとのコミュニケーション
- ファン同士の交流
企業がファンコミュニティを運用する場合、ファン同士のディスカッション、顧客満足度の向上など、目的によって施策が変わるため、何を目的(ゴール)とするかが大変重要だといえます。
ファンコミュニティの開設・運用の際は、あらかじめ目標設定をしておくのが良いでしょう。
そもそもファンコミュニティは2010年代の前半に注目を浴びましたが、運用の難しさなどで閉鎖されるケースが続いた時期もありました。
しかしコロナ禍の昨今、疎遠になりがちな顧客との関係を改善できる方法として再び注目を集めています。
ファンコミュニティサービスが注目されている理由とそのメリット
ファンコミュニティサービスが注目される理由
ファンコミュニティサービスが注目されている理由としては、次のような点が挙げられます。
- マス広告への限界感
- おひとりさまの増加とコミュニティへの所属願望
- 企業だけでなく個人のファンコミュニティの増加
上記の理由を背景にしつつ、今の時代に寄り添ったコミュニケーションの方法として新たにファンコミュニティサービスを導入する企業が増えています。
ファンコミュニティサービスを導入するメリット
では、ファンコミュニティサービスを導入するとどのようなメリットがあるのでしょうか。
代表的な例をいくつかご紹介していきます。
- LTV(ライフタイムバリュー)の向上による売上の拡大
- ファンがファンを呼ぶ効果・ファンの人数増加(リファラル)
- 交流を通じてのライトユーザーのコアなファン化
- ユーザーのリアルな意見のフィードバック(商品開発や改善のヒントに利用)
- ファン同士による問題解決(ライトユーザーの質問にヘビーユーザーが自発的に答えてくれる)
- 企業が自社のファンの存在を認識することによる社内に向けたブランディング(インナーブランディング)
人口減などにより市場が縮小する中、一部のコアなユーザーに購入額を増やしてもらうマーケティングが主流になりつつあります。
ファンコミュニティは、このような企業に対して熱心な優良ユーザーの育成にも役立ちます。
さらにインナーブランディングにより、社員のモチベーションが上がることも大きなメリットだといえるでしょう。
企業が運営するファンコミュニティサイトの事例
企業によるファンコミュニティサイトを具体的にご紹介していきます。
それぞれの企業サイトごとの特徴についても詳しく見ていきましょう。
【コメダ珈琲】さんかく屋根の下
出典元:https://komeda-sankaku.com/
まずは、喫茶店チェーン『コメダ珈琲』のファンコミュニティサイト「さんかく屋根の下」をご紹介します。
「さんかく屋根の下」では、ファン同士のコミュニケーションをはじめ、コンテスト(写真、メニューのアレンジ、ぬり絵など)やオンラインイベントに参加して、交流を楽しむことができます。
そのほか、新しいプロジェクトや新商品などへの投票も可能です。
ファンは自分のお店への参加意識を高めることができると同時に、企業側は投票によるファンの意見のフィードバックを得ることができます。
【カゴメ】&KAGOME
「&KAGOME」は大手食品メーカーの『カゴメ』によるファンコミュニティサイトです。オリジナルのレシピ・写真やレビューの投稿のほか、さまざまなテーマについて投票することもできます。今のサウンドロゴもアンケート結果から決定したのだそうです。
トマトジュースに使っている品種のトマトの栽培コミュニティがあるのも、トマトを使った商品が多い会社ならではのファンコミュニティサイトだといえます。
ファンコミュニティサイトでの交流を通じて、コアなファンの獲得やライトユーザーのヘビーユーザー化に役立てている「&KAGOME」。
売上の多くを占めるコアな顧客を大切にしていきたいという視点から、ファンコミュニティサイトを立ち上げたそうです。
(参照:https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2003/31/news032.html)
【アテニア化粧品】Attenir ファンコミュニティ
出典元:https://www.beach.jp/community/ATTENIR
アテニアは、一流ブランドの品質を1/3価格で提供することに挑戦し続けるという理念をもつ化粧品メーカーです。同社はファンコミュニティをマーケティングに活用していることでもよく知られています。
ファンコミュニティサイトでは、ユーザー同士のコミュニケーション・写真投稿・製品のお試しとレビューが可能です。コアなファンの投稿ややり取りから、ライトユーザーがヘビーユーザーとなっていくメリットがあります。
また投稿の内容を分析することによって、プロモーションのヒントを得ることもできるそう。
同社も、2度の低迷期をファンの意見をもとに乗り切った実績を持っています。
(参照:https://forbesjapan.com/articles/detail/31698)
【mineo(マイネオ)】マイネ王
「マイネ王」は、格安スマホサービスの『mineo(マイネオ)』のファンコミュニティサイトです。
サイトでは「パケットシェア」(使い切れなかったパケットをメンバー間でシェア)・「ゆずるね。」(混み合う時間に回線を使わない)などの仕組みを利用することが可能になっています。
同社はユーザーを‘同士’と捉えており、このようにユーザーの間では助け合いの仕組みが成立しています。
これらの仕組みにより、顧客満足度・紹介加入率が向上したことに加え、こうしたユーザーの助け合いの仕組みは、企業側のセールスポイントにもなっています。
【無印良品】IDEA PARK
出典元:https://lab.muji.com/jp/ideapark/
雑貨や家具などさまざまなジャンルの商品を扱う『無印良品』。同社のファンコミュニティサイトが「IDEA PARK」です。 ユニークな点は、商品の開発や改良の意見を書き込んでもらうことに特化しているところです。
書き込まれた意見は原則として全て公開されており、すべての意見を社内でチェックしているそうです。
検討しないものも含めて対応の段階も公開しています。
集められた意見をもとに、実際に商品化や商品の改良を実現しているのだとか。
さらに、書き込まれた意見にほかのユーザーが解決策を書き込むなど、ユーザーによる問題解決の場としての機能も自然に生まれています。
【森永製菓】エンゼルPLUS
出典元:https://ap.morinaga.co.jp/
「エンゼルPLUS」は大手お菓子メーカー『森永製菓』のファンコミュニティサイトです。
投稿者のフォロー・記事の保存といったSNS的な使い方ができることが特徴で、希望すれば使える初心者向けのアイコンもあり、コミュニケーションがしやすいように配慮されています。
アレンジレシピのアンケート投票など、書き込まれた意見を商品開発のヒントとして利用しているほか、自社に対するユーザーのマインドシェアを高める効果も得ています。
また、コンテスト応募作品の投票を全社で行うなど、サイトでやっていることを全社で一体となって取り組んでいるそうです。
良い運用方法として、ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。
【味の素】食の楽しい!発見コミュニティ
出典元:https://www.beach.jp/community/AJINOMOTO/index
大手食品メーカー『味の素』もファンコミュニティサイトを運営しています。この「食の楽しい!発見コミュニティ」は、その名の通りユーザーの投稿やレビューをきっかけに交流していくサイトです。
ユーザーはアンケートに回答・投票することで企業活動に参加することもできます。
そのほか、同社が持つ多くの商品ブランドを横断する形でユーザーに合った商品を提案するのが特徴です。
商品ブランドを超えて、ファンコミュニティサイトを企業全体のマーケティングにつなげることに活用しています。
【そごう・西武】 マニア区
出典元:https://mania-ku.sogo-seibu.jp/
「マニア区」は、百貨店の『そごう・西武』によるファンコミュニティサイトです。趣味や関心事を切り口に、ユーザー同士や企業とユーザーのコミュニケーションが可能なサイトとなっています。
ユーザーは投稿の保存やいいねができるほか、ほかのユーザーをフォローすることも可能で、交流のための機能が多く実装されています。
企業側としては、ユーザーの投稿やリアクションから顧客のリアルなニーズの分析などに活用しています。これにより、小さい単位の商品やサービスなど、それぞれに則った売り方の立案に役立てているそうです。
【三菱地所】丸の内15丁目PROJECT.
土地や不動産を扱って街づくりにも携わる三菱地所のファンコミュニティサイトが「丸の内15丁目PROJECT.」です。
同サイトは架空の街を舞台にしたラグビーコミュニティで、‘ラグビーの新しい魅力に出会える街’がコンセプトとなっています。
三菱地所は、「ラグビーワールドカップ2019」に始まり、ラグビー日本代表・ラグビートップリーグのスポンサーとなっています。
同社ではリアル・オンラインを問わずラグビーを応援する施策が行われており、ファンコミュニティサイトはその一環だといえます。
ワールドカップの後には丸の内で日本代表のパレードなどリアルのイベントも開催。今後はリアルとオンラインの融合も進めていく予定となっています。
【日本航空】 JALの旅コミュニティ trico(トリコ)
日本航空が運営するファンコミュニティサイト「trico」。ビジネス利用のヘビーユーザーだけでなく旅行で利用するライトユーザーもファンと捉えた運用が行われており、旅の楽しさがダイレクトに伝わる写真のシェアや交流がメインになっています。
ファンコミュニティサイト内での投稿やコメントなどが多く、企業にとっての貢献度が高いユーザーはアンバサダーに任命されるという制度があります。
コロナ禍においては苦しい時を刻んだ日本航空でしたが、社員はオンラインイベントでファンから元気をもらったのだとか。
社内を巻き込んだ運用を行いながら、今後はリアルとオンラインを組み合わせて活用していく考えだそうです。
会員制ファンコミュニティサービス(プラットフォーム)の事例
会員制ファンコミュニティサイト(プラットフォーム)とは
登録すれば無料で使える企業のファンコミュニティサイトとは別に、会員制の有料ファンコミュニティサービスも存在します。ユーザーはワンコイン程度の月額制で利用でき、コミュニティの運用者は売上からサービス提供側に手数料を払う仕組みです。
従来型のファンクラブは情報の提供がどうしても一方的になってしまいます。しかしファンコミュニティサービスはファンとの双方向の交流が可能です。
そのためファンコミュニティサービスは、ファンとの密な交流を求めるアーティストやアイドルによって利用されており、具体的には次のようなメリットがあります。
- ファンと直接交流したり日常の素の姿を見せたりできて、より身近に感じてもらえる
- ファン同士の交流が可能で、楽しんでもらえる
- リアルタイムの投稿が可能で、ファンにも同時に経験を共有してもらえる
- Webを使ったサービスながら、ファンしかいないクローズドな空間なので炎上しにくい
続いては具体的なファンコミュニティサービス(プラットフォーム)の事例をご紹介していきます。
Fanicon(ファニコン)
「Fanicon」は、YouTuberのてんちむやお笑い芸人の安藤なつ、ロックバンド「シド」のヴォーカリスト・マオなど、幅広い分野の芸能人が利用しており、人気のファンコミュニティサービスの1つです。
運営会社のTHECOOは、2021年に東証マザーズに上場し話題になりました。
コミュニケーションやライブ・ラジオ配信など、定番の機能が一通り実装されている使いやすいサービスです。
スクラッチくじ販売・ウェブショップ・各プレイガイド対応の限定チケット販売など、マネタイズにも対応。
4か国語(英語・韓国語・繁体中国語・簡体中国語)への自動翻訳、ウェブショップの配送にも対応している点が特徴です。
Mi-glamu(ミーグラム)
「Mi-Glamu(ミーグラム)」は、数多くの女性向け情報サイトを手掛けるモデルプレスが運営するファンコミュニティサービスです。テレビ大阪の番組「えなこ×さらば森田の猫しか勝たん」、キックボクサーの皇治などが利用しています。
インフルエンサー、グラビア・コスプレ、野球、アスリート、アイドル、モデル・俳優・女優、サウナなど、活動ジャンル別のプラットフォームブランドが用意されているのが特徴です。(ミュージシャン部門も追加予定)
掲示板やメッセージ送信、デジタル商品販売などにも対応しており、機能も充実しています。
今後は発送商品の販売・クラファン機能・イベント開催なども実装予定です。
Fanbeats(ファンビーツ)
出典元:https://creators.fanbeats.jp/
「Fanbeats」は、グリー傘下にあるファンコミュニティサービスで、クラウドファンディングと会員制コミュニティを組み合わせている点が特徴です。また、クリエイターのカテゴリにアニメや声優・ゲームなども用意されています。
人気キャラクターコンテンツ「鉄道むすめ」、VtuberのVESPERBELLなどのファンコミュニティがあります。
購入型のクラウドファンディングを通じて、新商品やキャンペーンをプロジェクトとして提案することが可能で、購入のデータ等はマーケティングに活用することもできます。
さらにプロモーションの支援やコンサルティングを受けることもできる上、もちろんユーザーとの交流も可能です。
ワードフィルターや迷惑アカウント通報、未成年保護など、安心・安全に運用できる機能もあります。
Fans’(ファンズ)
「Fans’」は、Twitterと連動した月額制ファンクラブで、スマホ1つで運用できてサポートも受けられるので、気軽に始めることができます。
韓国ドラマ「愛の不時着」出演の俳優ヒョンビンや歌手のKIRAが利用しています。
すでにTwitterアカウントがあれば、すぐに開設が可能で、既存のフォロワーにファンとして応援してもらえます。
連携するTwitterへの同時投稿や予約投稿、ファン限定投稿の告知もできるので、ファンはTwitterを見ているだけで限定コンテンツなどの情報が得られます。
またファンにTwitterを通じて情報を拡散してもらうことも可能なので、Twitterアカウントがあれば、今までのアカウントデータを活用することができます。
ブタイウラ
「ブタイウラ」は、好きなことを軸に集まった仲間と繋がり、コミュニティのオーナーであるタレント/インフルエンサー/スポーツ選手を中心に、コミュニティに所属するメンバーと交流や協力を行いながら、コミュニティのビジョンに向かって"好き"を楽しめる場所です。
島田秀平さんやアメザリ平井さんなどのお笑い芸人やマラソンランナーの岩出玲亜選手、鉄道マニアで知られる南田裕介さんなどがオーナーを務めています。ユーザーはアプリ自体のDLは無料でできますが、コミュニティに参加するときに月会費が発生します。
コミュニティオーナーと盛り上がれるトークルームや裏側を覗ける限定コンテンツ、オンライン会やブタイウラからのイベントなどコミュニティオーナーやメンバーと楽しめるイベントが盛りだくさん!
オンラインのミーティングを会員特典にしたり限定動画を配信したりと、どのコミュニティもファンの満足度の高いコンテンツを用意しています。
まとめ
ユーザーと企業がより親密に交流できるファンコミュニティサービス。ユーザーは応援する企業の活動にかかわるチャンスを得ることができ、企業や商品をより自分のものとして身近に感じられるようになります。
企業もユーザーからの直接の声を取り入れられることで、顧客満足度の高い商品開発や改良のヒントを得ることが可能になります。
たとえば商品の製品化において、企画段階からユーザーを巻き込んでいけるのもファンコミュニティならではのメリットです。
企業とユーザー、またユーザー同士の共感性が生まれやすい環境のファンコミュニティ。ファンコミュニティ限定のグッズ製作を通して、両者の距離をさらに縮めることも期待できるでしょう。
ファンコミュニティサービスは、ユーザーと企業にとってWIN-WINの理想的な関係を築くことができる新しいサービスだといえます。
今後、企業とユーザーとの強固な関係を築く新たなマーケティング手法のひとつとして上手に取り入れていきたいものです。