最近、『ワクチンパスポート』という言葉を耳にする機会が増えているのではないでしょうか。
ワクチンパスポートとは、新型コロナウイルスワクチン接種を公的に証明するものです。海外では、ワクチンパスポートが急速な広がりを見せ、日本でも7月下旬を目途に交付される予定となっています。ワクチンパスポートの導入により、海外渡航制限などが緩和される一方で、接種の有無による道徳的な問題が生じる可能性もあります。
今回は、ワクチンパスポートとはどのようなものか、導入のメリット・デメリットなどについて解説していきます。
ワクチンパスポートとは
新型コロナウイルスのワクチン接種を公的に記録し、証明する「ワクチンパスポート」。正式には「新型コロナウイルスワクチン接種証明書」といいます。
ワクチンパスポートは、モバイル端末のアプリや書面により、ワクチン接種済みであると証明する仕組みです。証明されれば、旅行者などが渡航先で隔離される期間も必要なくなると考えられています。
現在、ワクチン接種証明書を入国の必須条件とする国が増加傾向にあり、アフターコロナ後の海外渡航のマストとなることが予想されています。
ヨーロッパを中心にワクチンポスポートの導入が急ピッチで進んでおり、ドイツやイタリア、ギリシャなどではすでに導入されています。また、2021年7月1日からEUでも域内共通の「デジタルコロナ証明書」の運用を本格的に開始しました。
上記のように、ワクチンパスポートは海外で導入が開始され、日本でも経済界などから大きな期待が寄せられています。しかし、世界共通の認証システムがない上、個人情報の漏洩やプライバシーの侵害、ワクチン接種機会の格差など懸念点も数多くあります。
では、ワクチンパスポート導入のメリットとデメリットをそれぞれ見ていきましょう。
ワクチンパスポート導入のメリット
ワクチンパスポートが導入されることによるメリットには、下記のようなものがあります。
- 入国時のPCR検査の受検などが免除される
- 海外旅行や出張後の自主隔離期間が軽減される
- 観光業などの経済活動が活性化する
- イベントの開催制限が緩和される
7月7日時点の外務省の海外安全ホームページによると、現在日本からの渡航者や日本人に対して入国制限措置をとっている国・地域は70あります。また、日本からの渡航者や日本人に対して入国に際しての条件や行動制限措置を課している国・地域は167か国/地域あります。
例えば、アメリカに空路で渡航する場合、フライト出発の3日前以内に取得した新型コロナウイルス陰性証明書が必要です。
そこで、ワクチンパスポートを導入することによりPCR検査の受検などが免除され、入国がスムーズになるでしょう。
また、現在日本ではすべての入国者に対して、出国前72時間以内の検査証明書の提示および入国時のPCR検査の受検が必要です。さらに、帰国の次の日から起算して14日間の自主隔離期間が設けられています。
水際対策は各国で異なりますが、ワクチンパスポートの導入により、この自主隔離期間が軽減もしくは免除されるのです。
現在、新型コロナウイルスによる行動制限により、さまざまな経済活動が打撃を受けていますが、ワクチンパスポートの導入によって、海外渡航などの制限が緩和し、観光業などが活性化することが予測されます。
さらには、出入国の際だけでなく、人数の上限や収容率などのイベント開催制限の緩和にもワクチンパスポートの導入は有効だと考えられています。
ワクチンパスポート導入のデメリット
ワクチンパスポートの導入には、メリットがある反面、下記のようなデメリットも存在します。
- 接種済みが条件の出入国制限
- ワクチン接種済みかどうかの個人情報が漏れる
- ワクチン接種に対する個人の自由の侵害
- ワクチンパスポートがある人への優遇
- 差別や偏見の助長
ワクチンパスポートを各国が導入することにより、ワクチン接種済みということが出入国の条件となることが予想されます。ワクチンの接種機会には国や地域によって格差があるため、ワクチンを「受けた人」と「受けていない人」の間で不公平感が生じかねません。
また、ワクチンパスポートの有無により、ワクチン接種をしたかどうかの個人情報が漏洩することとなります。
さらには、ワクチンパスポートがあることにより、ワクチンの接種を促すことにつながり、個人の自由の侵害に当たる可能性もあるでしょう。
ワクチンパスポートがある(ワクチン接種済み)人のみが海外渡航が可能となったり、大規模イベントへの参加が可能になったりと、優遇されることも考えられます。
そして、最後に挙げられるのが、道徳的・倫理的な問題です。
ワクチンパスポートの導入により、ワクチンを「受けた人」と「受けていない人」の間で差別や偏見が生じることが懸念されます。
国によっては、十分なワクチンを確保できず、接種が進んでいないところもあります。また、特定のアレルギーの疾患や健康状態などのさまざまな理由により、接種できない人もいます。
日本においては、ワクチンは「接種を受けるように努めなければならない」という予防接種法第9条の規定が適用されます。これを「努力義務」といい、義務とは異なるものです。接種は強制ではなく、最終判断をするのは個人であるため、打たなくても法的に問題はありません。
ワクチン接種に対して、懐疑的な見方をする人が存在するのも事実です。
日本での新型コロナウイルスワクチン接種証明書発行は7月下旬予定
日本におけるワクチンパスポート(新型コロナウイルスワクチン接種証明書)は、7月下旬を目途に交付可能になるよう準備が進められています。
現在、ワクチンパスポートの発行に向けて、実務を担う自治体との調整や接種記録のシステム改修、記載事項を定めるための予防接種法の施行規則の改正作業が行われています。
当面の間は、海外渡航に必要なパスポート(旅券)を所持している人を対象に交付されます。
市区町村が、ワクチン接種記録をもとに書面で発行する予定です。発行されるワクチンパスポートには、氏名や国籍、旅券番号のほか、ワクチン接種日などが記載されることとなっています。
ワクチンパスポートの発行方法
申請手続きは、窓口もしくは郵送の2通りで、必要な書類は、下記の通りです。
- 申請書
- 旅券
- 接種券(郵送の場合、写し)
- 接種済証か接種記録書、またはその両方
旅券に旧姓・別姓・別名(英語)の記載がある場合、本人確認書類が必要です。また、郵送の場合、返送先を記載、切手を貼付した返信用封筒と、住所の記載された本人確認書類の写しが必要となります。
代理人による請求の場合、委任状が必要です。
ワクチンパスポートの記載内容
6月25日時点で、ワクチンパスポートの記載内容の詳細については、今後の諸外国の動向などを踏まえて決定しますが、予定されている記載内容は下記の通りです。
- 新型コロナウイルスワクチンの接種記録(ワクチンの種類、接種年月日など)
- 接種者に関する情報(氏名、生年月日、旅券番号など)
7月下旬を目途に、書面での交付が可能となるよう準備が進められています。実際の交付開始時期は、諸外国との調整状況を踏まえて確定します。
内閣官房副長官補室(コロナワクチン接種証明担当)が自治体に向けて説明会を開いた際に、ワクチンパスポートのイメージとして提示したものは下記となります。
(参考:令和3年6月25日 内閣官房副長官補室(コロナワクチン接種証明担当)ワクチン接種証明書 発行手続 第1回自治体向け説明会)
ワクチンパスポートの必要性
前述した通り、ワクチンパスポートは世界各国で導入が進んでいます。渡航者の入国の条件としている国もあるため、ビジネスや旅行で海外に行く場合は、マストとなる可能性が高いでしょう。
海外では、ワクチン接種が完了した人に向けてワクチンパスポートの導入を開始し、ワクチンパスポートを持っている人のみが特定の場所への出入りが許されるケースも出てきています。
また、日本ではワクチンパスポートを持っている人に対して、国内の移動自粛の緩和などを認めたり、医療機関などへの面会制限を緩和したりすることが予想されています。
では、ワクチンパスポートの海外での利用・活用と日本での利用・活用方法の予想について見ていきましょう。
海外での利用・活用のされかた
世界でも速いペースでワクチン接種が進むイスラエルでは、接種したことを証明する「グリーン・パス」を発行し、イベント会場での提示を義務化しています。施設側が専用のアプリを使用して、利用者のグリーン・パスに掲載されているQRコードを読み込むと、ワクチンの接種時期などを確認ができます。
すでに新型コロナウイルスに感染した人に対して、「回復証明書」を発行し、グリーン・パスと同じように提示することで施設などの利用が可能です。
また、アメリカのニューヨーク州では全米で初となるワクチンパスポート「エクセルシオール・パス」が導入されました。ワクチン接種が完了したユーザーが必要な情報をアプリに登録すると、ユーザーの状態を反映したQRコードが発行され、店舗側のアプリで読み取ることができます。
飲食店などがこのシステムを導入し始めています。
しかし、アメリカではワクチンパスポートに否定的な州もあり、テキサス州などの16州では倫理的な問題や個人情報の観点から、ワクチンパスポートの使用やワクチン接種証明書の提示を禁止しているところもあります。
海外全体の動向として見ると、ワクチンパスポートの利用は拡大傾向にあるといえるでしょう。
日本での利用・活用方法の予想
日本での利用・活用方法として、6月24日に経団連がまとめた提言は下記の通りです。
- 各種割引・特典の付与:ワクチン接種記録の提示による各種割引や特典の付与
- 国内移動・ツアーでの活用:検査の陰性証明と組み合わせて、国内ツアーや移動の自粛制限の緩和
- 優先入場:陰性証明と組み合わせて、イベント会場や施設などへの入場制限の緩和
- 活動制限の緩和:医療機関や介護施設などの面会制限の緩和、イベントの開催制限の緩和、テレワークなどの出社制限の緩和
上記から、日常生活においても、ワクチンパスポートを持ち歩く機会が増えることが予測されます。
現在のところ、日本でのワクチンポスポートは、電子ではなく紙での交付となっています。そのため、ワクチンパスポートを持ち歩くためのパスポートケースの需要も高まるでしょう。
まとめ
日本では7月下旬を目途に交付が開始されるワクチンパスポート。入国が制限されていた国への渡航が可能となったり、渡航後の自主隔離期間が短縮されたりとメリットもありますが、ワクチンを「打った人」と「打っていない人」間の差別や偏見が助長されるなどの倫理的問題もあります。世界各国で現在急速に広がりを見せているワクチンパスポートですが、まずはどのようなものなのか正しく理解することが大切でしょう。