みなさんは「ソーシャルコマース」という言葉を聞いたことがありますか?近年Eコマースの新しい形として注目を集めているソーシャルコマースには大手SNSなども参入し、今後市場が拡大していくことが予想されています。
本コラムでは、ソーシャルコマースの意味や代表的なプラットフォーム、企業による事例などをご紹介します。ソーシャルコマースがすでに浸透している海外での活用事例もご紹介していきますのでぜひご参考にしてみてください。
ソーシャルコマースとは
「ソーシャルコマース」とは、ソーシャルメディアの利用者同士がプラットフォームの中で商品を売買する販促・販売の手法です。いろいろな種類があるソーシャルメディアのうち、とくにSNSのプラットフォームで販売する「SNS×EC」のスタイルが現在急速に広がりつつあります。そのため、現在はほとんどの場合SNSの中で商品を販売することを指して「ソーシャルコマース」と呼んでいます。
SNSを使ったソーシャルコマースでは、販売側による商品についての投稿からユーザーが直接購入ページに遷移して購入できます。商品の発見からワンストップで購入してもらえるのが特徴です。SNS内に作成したショップに移動する場合と、ECサイトなど外部サイトに遷移する場合があります。
ソーシャルコマースが注目されている理由
ソーシャルコマースが近年注目を集めている理由としてまず挙げられるのは、世界規模で拡大傾向にあることです。とくに現在は中国・東南アジアなどの地域で広まっていますが、アメリカでも浸透しつつあり、世界的にも今後急速に拡大する可能性が高いといえます。
さらに販売側・購入側ともにメリットが多いという点も挙げられるでしょう。それでは、双方にとってのメリットとはどのようなものがあるのででしょうか。
【販売者側のメリット】
- 購入までに離脱されることが少ない
- SNSを利用している世代の市場を開拓できる
- サイト構築の手間が少ない
- 顧客の囲い込みがしやすい
【購入者側のメリット】
- いいと思ったものをすぐにその場で買える(検索し直しなどが不要)
経済産業省の「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」によると、2020年のBtoC-EC市場規模は19.3兆円です。コロナ禍により旅行などサービス系の市場規模が大幅に縮小し、トータルでは前年から微減したものの物販は大幅な市場規模拡大となっています。インターネット人口は約9割、うち60%以上がスマートフォンを利用しているなど、物販のソーシャルコマースが今後増加する材料は多いと言えます。
(参照元:https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/statistics/outlook/210730_new_hokokusho.pdf)
ソーシャルコマースとEコマースの違い
ソーシャルコマースとEコマースは類似点も多くありますが、具体的にはどのような点が異なるのでしょうか。
Eコマース(EC)は、「電子商取引」を表す「Electric Commerce」の略称です。一般的には、大手ショッピングサイトや自社サイトを通じて商品を販売することを指します。販売の場はSNSとは別にあり、販売という点で見るとSNSは販売サイトへの流入経路として位置づけられます。もちろん取引に至るまでについては、情報発信やユーザーとのコミュニケーションなどの役割を持っています。
それに対してソーシャルコマースは、SNSを中心としたソーシャルメディアの中で販売することをいいます。SNSが集客に加えて販売の場になっているのがEコマースとの相違点であり、情報発信から集客・販売までSNSがワンストップ・シームレスに利用されます。中には決済まで完結するプラットフォームもあります。
ただし、厳密にはソーシャルコマースも電子商取引です。よって、「Eコマース」の中に「ソーシャルコマース」が内包されており、ソーシャルコマースは従来とは違う新しいタイプのEコマースだという方が実態に近いかもしれません。
ソーシャルコマースの種類
ソーシャルコマースは、販売者側と購入者側の関係性や使用するプラットフォームなどによって、さまざまなタイプに分類できます。その代表的なタイプとして下記が挙げられます。
CtoCタイプ
「CtoC」は「Consumer to Consumer」のことです。プラットフォーム内で消費者同士が取引するタイプで、フリマアプリが分かりやすい例となります。
例:メルカリ、Amazonマーケットプレイス
SNS・ソーシャルメディアタイプ
SNSの中で商品の購入が可能なタイプです。近年盛んになっているのがこのタイプで、投稿やライブ配信・プロフィールから商品を直接購入できるタイプです。
例・Instagram、Pinterest
ユーザー参加タイプ
ユーザーが購入者としてだけではなく、クラウドファンディングを通じて企画などにも参加するタイプです。たとえばユーザーの寄附が目標額に達するかどうかで、実際に製品化されるかどうか決まったりします。
例:Makuake、CAMPFIRE
共同購入タイプ
共同購入クーポンサービスのことで、指定された人数を満たすとクーポンの割引が適用されます。日本では以前「グルーポン」や「ポンパレ」などのサービスがありましたが、現在ではサービス終了となっています。現在は中国で盛んに行われています。
例:グルーポン(アメリカ)、Pinduoduo(中国)
O2Oタイプ
「O2O」は「Online to Offline」の略です。オンライン上のレビューやアドバイスを参考に、オフラインの実店舗で商品を購入します。オンラインの購入ではないので、本来はソーシャルコマースのサービス形態というより購入パターンという表現が近いかもしれません。2022年3月現在ではサービスが終了していますが、例としてはMotiloやFashism、Go try it onなどが挙げられます。
レコメンドタイプ
ほかのユーザーのレビューや評判をもとに購入するタイプです。O2Oと違ってサイト内で購入できる点、購入履歴からおすすめ商品が表示される点などが特徴です。拡散したり口コミを投稿したりしたユーザーに特典を与えるサイトもあります。 例:Amazon、アットコスメ
ソーシャルコマースのプラットフォーム
さまざまなプラットフォームをソーシャルコマースの場として利用することができますが、よく知られている例としては次のプラットフォームがあります。
- TikTok
- Amazon
具体的に見ていきましょう。
SNSの代表ともいえる「Facebook」でソーシャルコマースを行うものです。PUMAなどの大手企業も利用しており、前述のソーシャルコマースの種類としてはSNS・ソーシャルメディアタイプに該当します。
無料でショップページを開設することが可能で、広告やカタログを配信することもできます。なお、日本ではまだ決済に対応していないため、購入はFacebook内の商品ページから自社のECサイトやECモールへ遷移して行います。そのほか、ユーザー同士のコミュニケーション用アプリ「メッセンジャー」を通じて取引連絡をすることが可能です。
販売手数料は売上が8ドル以下は一律0.4ドル、それ以上は販売額の5%です。手数料は発送1回ごとに計算されます。
TikTok
「TikTok」は、中国発のモバイル端末向けショート動画配信のプラットフォームです。10~30代が多く利用しており、こちらもソーシャルコマースのタイプはSNS・ソーシャルメディアタイプに分類できます。
中国ではショップ機能が実装済みで、「KOL」(「Key Opinion Leader(キーオピオニオンリーダー)」の略)と呼ばれる、専門性を持つインフルエンサー達によるライブコマースを活用した販売が頻繁に行われています。「ライブコマース」は、インターネット版のテレビショッピングともいえるもので、配信中に視聴者とコミュニケーションが取れるなど、双方向のやり取りができるのが特徴です。
ショップ機能は中国以外ではまだテスト段階で、イギリス・アメリカ・インドネシアの一部のユーザーのみ利用できるようです。将来的には商品のアップロードから注文受付・配送などのフルフィルメントをTikTok内で管理できるようになる予定です。
Instagramは一世を風靡した写真を投稿するSNSです。コミュニケーションツールとしてもすっかり定着しており、Z世代はLINEの代わりに連絡を取り合うツールなどとしても利用しています。ソーシャルコマースとしてはSNS・ソーシャルメディアタイプに該当します。
アプリ内に「Instagramショップ」を開設して商品を登録することができます。また、投稿する商品の写真や動画に「商品タグ」を付けることもできます。ショップの商品ページのボタンや投稿の商品タグをタップすると自社サイトの該当商品ページに移動し、そこから商品を購入することができます。
(決済機能はまだ日本では実装されていません)
Instagramでショップを開設するには、商品登録のために同じMeta社(旧Facebook社)のFacebookカタログの作成、FacebookとInstagramとを連携しておくことという2点が必須になります。
「Pinterest」は、主にWeb上の気に入った画像をピンナップするように自分の「ボード」に集めてシェアできるサービスです。Pinterestもソーシャルコマースに活用することができ、これもSNS・ソーシャルメディアタイプに該当します。
「ピン」(Pinterest内でシェアすること)した画像から、画像のリンク元に遷移することができます。つまり商品写真から販売ページに移動することが可能となります。日本ではPinterest内での販売は今後実装予定となっていますが、海外ではすでに商品タグも導入されています。
ピン元となる自社サイトで画像に所定の設定をしておくと、ピンされた場合に在庫状況や価格を表示できる「プロダクトピン」機能があります。Pinterestユーザーは購入意欲が高く、購入金額も高い傾向があるといわれているので、日本でのショップ機能の実装が待ち遠しいですね。
Amazon
Amazonでもソーシャルコマースは可能で、「Amazonマーケットプレイス」はAmazonに出品してAmazonの中で商品を販売できるサービスです。こちらはソーシャルコマースのタイプのうちCtoCタイプに当たります。
Amazonマーケットプレイスでは、販売から決済までAmazonの中で行うことが可能です。出品している商品が検索された場合はもちろん検索結果に表示されます。発送は基本的に自ら行いますが、「FBA(フルフィルメント By Amazon)」というサービスで委託することも可能です。
月間登録料無料・1回の成約ごとに100円かかる小口出品と、月間登録料4,900円・成約料無料の大口出品があります。どちらもさらに約15%の販売手数料が加算されます。
企業のソーシャルコマース活用事例
続いては、企業のソーシャルコマース活用事例をご紹介していきましょう。
- ハイブランドのファッション企業の事例
- レディースアパレルブランドの事例
- 刺繍工房ブランドの事例
それでは、具体的に見ていきます。
ハイブランドのファッション企業の事例
ハイブランド「ルイ・ヴィトン」の例をご紹介します。ルイ・ヴィトンは、よく知られている通りフランスの高級ファッションブランドです。
2019年に、高級ブランドとしてははじめて、中国のソーシャルコマースプラットフォーム「小紅書(Little Red Book、通称「RED」)」に公式アカウントを開設しました。投稿に対する質問に答えたり、TikTokの項でも触れた「KOL」(Key Opinion Leader、専門性を持つインフルエンサー)による施策を行ったりしています。2020年にはREDでライブストリーミングセッションを実施し、約70万人が視聴。コロナ禍での新しい購入スタイルを提供したと話題になりました。
その結果、口コミやKOLの影響力が大きい中国市場において、数多くのフォロワーを獲得しています。
レディースアパレルブランドの事例
次に、レディースアパレルブランドの例として「17kg」をご紹介します。17kgは、プチプラの韓国レディースアパレルを中心に扱うセレクトショップで、10~20代女性をメインターゲットとしています。
Instagramを活用していることで知られており、「SNS発」と言われるほどInstagramなどSNSが急成長の原動力となっています。フォロワー数は約50万人で、コーデや着こなしなど、コアターゲットに絞ったコンテンツを配信しています。投稿には商品タグを付けて購入ページへ誘導。投稿の頻度も高く、内容もターゲットに「刺さる」投稿になっています。
Twitterでも情報発信していますが、そちらでも意図的に商品ページへの動線を作るような工夫がなされています。
刺繍工房ブランドの事例
最後に、「iCONOLOGY(イコノロジー)」の例を見ていきます。iCONOLOGYは、岐阜県にある刺繍工房の3代目が立ち上げたアパレルブランドで、睡蓮や胡蝶蘭など大きめの花モチーフを刺繍としてほどこした華やかなデザインが特徴です。
同ブランドでは、Instagramをソーシャルコマースに活用しています。新商品の告知や商品紹介の写真を投稿し、商品のタグ付けとショップへの誘導を行っています。さらに新製品の発売時にはインスタライブを行いその翌日にオーダー開始とするなど、ライブコマースに接近した手法を採用しているようです。
そのほかTwitterでの発信も積極的に行っています。Instagramは商品の写真と基本的なデータをメインに発信して販売の場にしつつ、Twitterはブランドのストーリーや哲学などといった舞台裏の発信と使い分けているように思われます。
まとめ
SNSは、企業にとってユーザーとより深くコミュニケーションを取ることができる場です。特にBtoCのビジネスを展開している場合は、SNSを活用することで自社のECサイトもさらに大きく成長する可能性があります。さらに海外では大手SNSもショップ機能を実装しつつあるので、海外を相手としたビジネスであれば、ソーシャルコマースはビジネス拡大の必要条件となっていくのではないでしょうか。
今後、大きな可能性を秘めているソーシャルコマース。自社経営に上手に取り入れながらビジネスの拡大に役立てたいものです。