お気に入りのスポーツチームが発行するデジタル通貨を保有して、特典を受けたりチーム運営に関わりを持ったりする『ファントークン』の導入が世界的に注目を集めています。2021年に入ってから、国内チームもファントークンの導入を次々と発表。
このファントークンとはいったいどんなものなのか。国内外でのファントークンの導入事例やメリット、今後の可能性なども含めて解説していきます。
スポーツ業界などでも導入される「トークン」とは
昨今スポーツ業界で注目が高まっているトークンは、デジタルの分野において、取引情報を記録するデータベース技術「ブロックチェーン」を使ったサービスの一つを示します。トークンという言葉は代用貨幣や商品券、引換券などを指しており、仮想通貨や電子マネー、ポイントなどもトークンに含まれます。
トークンには大きく、以下の二つの分類があります。
- ファンジブルトークン(FT)・ノンファンジブルトークン(NFT)
- ユーティリティトークン・セキュリティトークン
ファンジブルトークン(FT)・ノンファンジブルトークン(NFT)
FTは仮想通貨など代替可能なトークンを示します。一方NFTは代替できないトークンで、ゲーム上のアイテムやキャラクターをトークン化した場合などを指します。
ユーティリティトークン・セキュリティトークン
ユーティリティトークンはサービスを利用する際に使われるトークンで、サービス利用券のようなイメージです。クラウドサービスを使う際などに利用することができます。
一方でセキュリティトークンのセキュリティは「証券」を意味しています。有価証券をデジタル化したようなイメージです。
ファントークンとは
スポーツ業界で導入が目覚ましいファントークンは、チーム運営などに関わる投票など、さまざまな企画に参加する権利が付与される『ユーティリティトークン』です。ポイントと同様保有することができ、購入者の売買に応じて価格が変動します。特定のチームのトークンを保有して付与される権利としては、
- チケット抽選
- オフィシャルグッズのキャッシュバック
- フォトコンテストやクイズへの参加権利
- ユニフォームのデザインや選手の入場曲を決めるときの保有者限定投票への参加権利
などが例として挙げられます。
限定特典を利用することでチームをより身近に感じられ、さらにクラブの運営の意思決定にも関われるため、今スポーツファンの間で人気が高まっています。
ヨーロッパサッカーのクラブチームが導入したことで注目された「ファントークン」
ファントークンは欧州のスポーツチームなどを中心に、2020年頃から積極的に導入され盛り上がりを見せています。元々知名度や人気の高いチームがファントークンを発行することによって、さらに注目を浴びたケースをご紹介します。
- プロサッカーチーム「FCバルセロナ」
- サッカーアルゼンチン代表
プロサッカーチーム「FCバルセロナ」
スペインのプロサッカーチーム「FCバルセロナ」は、ファントークンのプラットフォームを築いたファン投票・報酬アプリ「Socios.com」と連携して、ファントークンを発行しています。
ファントークンを購入したファンは、FCバルセロナが実施する各種投票(選手更衣室のデザイン決定投票)やアンケートへの参加権を獲得することができます。試合前交流会の特別体験やスタジアムでのVIP試合観戦などの限定報酬も発生します。ファンはアプリ利用度によって報酬ポイントを獲得するためポイントのランキングを競ったり、ファントークンの取引をしたりすることも可能です。
サッカーアルゼンチン代表
「Socios.com」はアルゼンチンサッカー協会とも連携して世界初のサッカー代表チームの公式ファントークンを発行しています。チームのファントークン保有者はアプリ内のコンテストへの投票権や限定プロモーション、ゲーム参加などのメリットが付与されます。
ファントークンのメリット・デメリット
新型コロナウイルス感染拡大を受け無観客試合が多くなったスポーツ業界にとって、観戦以外でファンの関心を集める企画を進められるファントークンには大きなメリットがあります。ファンとチームの距離を縮めエンゲージメントを強化することは、チームの人気を高めることにつながり、結果的に運営状況にも影響すると考えられるからです。前述した通り、ファンにとってもファントークンを保有することに多くのメリットがあります。限定特典を受けたりクラブ運営の意思決定に関わったりすることで、チームにより愛着を感じ、応援する喜びを高められます。
そしてファントークン自体がデジタル通貨の役割を果たすため、チームはファントークンを販売して収益を活動資金に活用することができます。ファンもファントークンが購入時よりも値段が上がっていれば、取引によって売却益を得ることが可能になります。
一方で、ファントークンはネット利用になじみのない層には敬遠されがちです。さらに仮想通貨がハッキングにより大量に盗まれた事件や不安定な市場状況が広く知られていることから、トークンそのものにネガティブなイメージが持たれてしまう面もあります。そのため限られた層のみで利用される状況が続けば、トークンの価値が上がりにくくなるリスクも発生します。そうなるとチームにとってもトークン導入がイメージアップにつながらなくなる可能性もあります。
日本でのファントークンの導入事例
日本でも2021年に入ってから導入する事例が出てきていて、今後スポーツだけでなくいろいろな領域に活用が拡がる可能性を秘めています。『ファントークン元年』になりそうな2021年、注目されている導入事例として以下の3チームをご紹介します。
- Jリーグ「湘南ベルマーレ」
- ソーシャルフットボールクラブ「SHIBUYA CITY FC」
- Bリーグ「仙台89ERS」
Jリーグ「湘南ベルマーレ」
Jリーグの「湘南ベルマーレ」は、国内プロスポーツチームで初めてファントークンの活用を発表しました。ブロックチェーン技術を活用したクラウドファンディングサービスを手掛けるFiNANCiEを使ってトークンを発行し、販売収益はチームの運営資金やファン参加イベントの開催資金として活用されます。
トークン保有者はVIP席での試合観戦や試合前の選手のウォーミングアップを見学できる権利、クラブ投票企画や特典抽選への参加権を得られます。投票テーマはサポーターによるMVP選出、試合後の選手や監督への質問内容などが案として出されています。
ソーシャルフットボールクラブ「SHIBUYA CITY FC」
Jリーグ参入を目指すソーシャルフットボールクラブ「SHIBUYA CITY FC」もFiNANCiEを通じてファントークンの導入を発表しています。トークン保有者には企画投票の参加や特典抽選、参加型イベントへの招待のほか、クラブ運営に参加できる「トークン主総会」にも招待される特典があります。
投票企画は、ユニフォームデザインや渋谷の街に掲載するポスターのデザイン案の選定。参加型イベントでは、クラブの非公開情報を共有するオンライン説明会などの案が挙げられています。トークンの販売収益はチーム運営資金や参加型イベント開催資金に充てられます。
Bリーグ「仙台 89ERS」
サッカーだけでなく日本のプロバスケットボールチームにも、ファントークン導入の動きが見られます。Bリーグの「仙台 89ERS」はFiNANCiEを通じて国内初のプロバスケットボールチームのファントークンの導入を発表。トークンの保有によって、投票企画への参加や限定イベント・限定グッズの応募権利が提供されます。
また、トークン発行型ファンディングも導入。対象は東日本大震災発生以降チームを支えてくれたファンへの感謝を伝える取り組みの一環として、未来を担う子供たちにプロゲーム仕様の演出で試合を経験してもらう「NINERS HOOP GAME」の開催。トークンの購入で支援ができ、指定席やコートサイドシートへの招待、Tシャツプレゼントなどの特典を受けられます。
チームにとっては、ファントークン販売収益やトークン発行型ファンディングを通じて運営資金を得られるほか、バスケットボール全体の振興を推進できるというメリットがあります。
まとめ
ファントークンは、新型コロナウイルス感染症の拡大によって先行き不透明なスポーツ業界において、ポテンシャルを秘めた要素です。購入者が増えるほど価値が上がる可能性があり、チーム成績やファン感情、選手の加入・流出などによっても価格変動すると言われています。盛り上がればチームとファンにとってウィンウィンの成果を出せる仕組みのため、今後日本で注目度が急上昇することも予想されます。スポーツ以外のジャンルでも応用できるため、ビジネスの視点からも目が離せなくなるかもしれません。