新しい経済の形として、注目度が上がっているサーキュラーエコノミー(循環型経済)。欧米主導で進められてきた考えで、近年日本でもビジネスモデルに取り入れる企業が増えています。国内、海外問わずサーキュラーエコノミーを行っている企業の具体例をご紹介します。
目次
サーキュラーエコノミー(循環型経済)とは?
サーキュラーエコノミーと3R、リニア・エコノミー発想との違い
サーキュラーエコノミーは従来の経済システムだけでなく、日本で浸透している「Reduce(ごみを減らす)」「Reuse(再利用する)」「Recycle(資源として再活用する)」による3Rとも発想が異なります。
従来の経済システムでは、原料、生産、消費、廃棄という一方通行の直線で図式化される「リニア(直線型)エコノミー」の仕組みが浸透していました。3Rで知られるリサイクリングエコノミーの考えも、原料から廃棄物までの直線的な流れが含まれており、廃棄物の発生を前提としています。
しかしサーキュラーエコノミーの発想では、従来廃棄されていたものを新たに原料として採用します。3原則にもある通り、廃棄物を出さずに循環システムが回る点で、3Rやリニア・エコノミーと異なります。
サーキュラーエコノミーが生み出す経済価値
ビジネス形態がサーキュラーエコノミーに移行することで、莫大な経済価値が見込まれます。人口の増加や大量生産・大量消費型の経済システムによって見込まれる経済損失を防げるためです。
OECD(経済協力開発機構)が2018年に発表した報告によると、世界の資源利用量は90ギガトンから、2060年までに167ギガトンに増加するといわれています。対策無しで資源がどんどん採掘されれば、やがて資源が枯渇し、経済活動の停滞や環境破壊などの問題を招きます。そこでサーキュラーエコノミーのシステムを生かして、既に消費された製品の原料をリサイクルすれば、資源の無駄遣いを食い止められます。
戦略コンサルティングのアクセンチュア社は、サーキュラーエコノミーの市場規模は2030年までに4.5兆米ドルに上ると試算しています。サーキュラーエコノミーが拡大すれば、ビジネスに対するマインドも環境の保全と一体となって動く流れが浸透するでしょう。そのため、環境と経済双方の世界的な危機を食い止める価値も、サーキュラーエコノミーには期待されています。
サーキュラーエコノミーに対する海外と日本の意識や取り組みの差
サーキュラーエコノミーの考えは、欧州を中心に発展してきました。2015年12月、欧州委員会(EC)はサーキュラーエコノミーを実現させるための政策や行動計画をまとめた「サーキュラー・エコノミー・パッケージ」を採択。ドイツでは再生プラスチックを10%以上使用しているICT機器のみを公共調達の対象とし、フランスでは再生プラスチック以外の包装材に対して罰金が科されるなど、ヨーロッパではサーキュラーエコノミーをベースとした規制が政府主導で進められています。
経済や環境の分野で取り組みが紹介されたり、再生可能な素材を商品に導入する企業が注目されたりするなど、日本でもサーキュラーエコノミーの知名度は上がっています。ただ市民の意識の高いリサイクルと比べると、サーキュラーエコノミーの取り組みはそれほど浸透しているとはいえません。環境に負担をかけて生産される商品に対して不買運動で激しくプレッシャーを与えるほど、企業の責任を重視する雰囲気も出来上がっていません。そのため、資源やエネルギーの持続可能性を重視したサーキュラーエコノミーの取り組みを拡大させる余地が、日本には多分に残されています。
サーキュラーエコノミーに対する具体的な取り組み事例
先に述べたように、サーキュラーエコノミーに対する取り組みは、日本より海外の方が先進的です。ですが日本にも、サーキュラーエコノミーに取り組む企業はあります。食品廃棄物のリサイクル率70%やプラスチック製レジ袋の使用ゼロを2030年目標に掲げるセブン&アイホールディングスが例です。既に先進的な取り組みを導入している消費者にもなじみの深い海外企業や日本企業に続いて、今後サーキュラーエコノミーを取り入れる企業が続々と増えると予想されます。それでは、具体的な取り組みを行っている海外企業、日本企業の事例を見ていきましょう。
◆海外企業の事例
日本でもおなじみの以下の海外企業は、サーキュラーエコノミーへの積極的な取り組みでも有名です。サーキュラーエコノミーの先進的な仕組みを駆使した商品に触れる機会に、日本の消費者は恵まれているといえます。
- NIKE
- アディダス
- ユニリーバ
ナイキ
アパレル大手のNIKEは、1990年代から使用済みシューズの自主回収・リサイクルプログラム「Reuse-A-shoe」を導入するなど、環境保全を意識した取り組みで注目され続けています。工場で出たスクラップを原料に取り入れて開発した「スペースヒッピー」など、製品を製造する過程からも再生・リサイクルの考えを展開。
炭素と廃棄物の排出量ゼロを目指し、地球環境やスポーツの未来を守る取り組み「Move to Zero」をうたっており、プラスチックボトルを再利用した再生ポリエステルや再生レザーも積極的に活用しています。
アディダス
アパレル大手のアディダスは、海岸で回収されたプラスチックごみをスポーツウェアの素材にアップサイクルした「PARLEY OCEAN PLASTIC」の活用などで知られています。海洋プラスチックの回収をしている地域の雇用創出といった実績でも、評価が高い企業です。
今後は単一素材で製造し、使用後に回収・溶解して100%再生可能となるランニングシューズ「FUTURECRAFT.LOOP」の生産を予定しており、注目を集めています。
ユニリーバ
パーソナルケア製品メーカーのユニリーバは、2025年までにプラスチック・パッケージを100%再利用・リサイクル・堆肥化可能にしたり、非再生プラスチックの使用料を半減したりする取り組みを進めています。
パッケージに使用するプラスチックの量を減少させる「LESS PLASTIC」のアプローチでは、包装の軽量化などのほか、日本では特に詰め替え用製品の充実が進められています。
◆日本企業の事例
グローバル企業に限らず、以下の日本企業でもサーキュラーエコノミーの取り組みを導入しています。積極的にサーキュラーエコノミーの取り組みを導入しようと続く国内企業にとっても、参考になる内容がそろっています。
- ユニクロ
- アトリエデフ
- ユニ・チャーム
- イワタ
ファーストリテイリング
ファストファッションの代表格として世界中で人気を獲得するユニクロは、全商品をリサイクル・リユースする「RE.UNIQLO」を推進。着られなくなったダウン商品を店舗で回収して新たな服の素材として蘇らせ、服としてリユースできないアイテムは回収後に燃料や防音材に再活用。服のリユース品として、世界中の難民への支援にも役立てられています。
ほかにもジーンズの仕上げ加工時の水の使用量を最大99%削減したり、取引先工場から店舗に至るまで化学物質や有害物質を出さないように配慮を行き渡らせたりするなど、幅広い取り組み内容で注目されています。
アトリエデフ
自然素材での注文住宅を手掛ける工務店のアトリエデフでは、店舗向けに木製家具をリースする「めぐリス」を展開。店舗でリノベーションごとに木製家具が捨てられてしまう問題に対して、同社が所有する家具を店舗に貸す仕組みで商品の廃棄を防ぎます。
またリノベーションを重ねて長期に維持でき、解体後もバイオマス燃料などとして再利用できる住宅づくりにも取り組んでいます。工事や建物をつくる際のサプライチェーンも含め、製造時に再生可能エネルギーを活用する点も注目されています。
ユニ・チャーム
ベビー用品や生活用品を送り出す大手企業のユニ・チャームでは、紙おむつ製品のリサイクルシステム実現を進めています。使用済み紙おむつを回収し、洗浄や独自のオゾン処理などを経て、バージンパルプと同様の衛生的なパルプとして再資源化。再資源化したパルプを新たな製品の素材にする仕組みです。洗浄などに使う処理水も再利用して、排水の削減も目指します。同社では同システムがもたらす効果として、「使用済み紙おむつを焼却してバージンパルプから新たな製品をつくる場合に比べ、温室効果ガス排出量を87%削減できる」としています。
さらに同社では、スリム化による製造や流通工程での二酸化炭素削減などを通し、持続可能な社会への適合を推進する商品を「エコチャーミング商品」と定義。商品開発の時点から、環境配慮への視点導入を推奨しています。
イワタ
寝具メーカーのイワタは、サーキュラーエコノミーコンセプトの無漂白・無染色を掲げる新ブランド「unbleached」を開発。天然素材を使った生成りの生地で、家庭で日干しや水洗い可能で長く快適に使える商品を送り出しています。使い続けた商品も、仕立て直しによって保温性や吸湿性の高い状態でさらに繰り返し使えます。
同社は再資源化しやすい素材や再生可能エネルギー100%の電力の導入、不用になった寝具の引き取りと再利用などにも取り組んでいます。
日本人はサーキュラーエコノミーへのポテンシャルを持っている
海外に比べ、日本はサーキュラーエコノミーの推進に後れを取っていることは前述した通りです。しかし、実は古くから日本人はサーキュラーエコノミーと同様のシステムになじむ生活を送っていました。江戸時代には傘や草履など日用品が使えなくなると手直しして使い続けるのが当然で、紙や着物、箒などはリサイクルされた後に土に還される、というサイクルが成り立っていました。さらに消費者の集まる江戸の排泄物は、農村で堆肥として再利用・資源化されました。現在の視点から判断しても、理想的な循環型社会が確立されていたのです。
鎖国の影響で産業などに大きな変化が起きない特徴から、「孫の世代のために木を植える」といった長期的な視点で人々はモノをとらえており、製品を維持・修理して使い続ける価値観が浸透していました。また、ふんどしをはじめとした衣料品や家財道具を貸し出す「損料屋」という商売もあり、庶民は基本的にモノを所有せず借りる意識が浸透していました。
日本におけるサーキュラーエコノミーの未来・展望
元々リサイクルによる循環型社会への取り組みで成果を上げている日本は、今後サーキュラーエコノミーの考えの拡大が急速化する可能性を秘めています。古来よりものを大切にし、「もったいない」の精神を受け継ぐ日本人には、サーキュラーエコノミーの発想はなじみやすいはず。前述したように、サーキュラーエコノミーに類似した生活モデルが江戸時代に存在した実績も、日本にはあります。
昨今ではサーキュラーエコノミーモデルを経済システムとして日本で普及させ、日本型モデルの育成などを目的とした団体も立ち上がるなど、各種団体による啓発の企画も次々と打ち出されています。サーキュラーエコノミーの発想が急速に広まることを予期して、企業側も取り組みの加速化が急務となる可能性があるでしょう。
まとめ
海外主導で進められてきた考え方ですが、サーキュラーエコノミーの取り組みが地球環境や経済のために急務である状況は、日本でも変わりません。海外や国内の先進企業の取り組みも参考にしながら、自社の特徴を生かしたやり方でサーキュラーエコノミーを実践することでSDGsの目標実現へとつながります。長期的な視野を持って取り組み続けることが、これからの社会経済の中で企業が発展し続けるために大切ではないでしょうか。
当社では、サーキュラーエコノミーの取り組みと親和性の高い、サステナブルな素材を使用したノベルティグッズのご提案を積極的に行っておりますので、ぜひご相談ください。
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サーキュラーエコノミーは言葉の通り、循環型の経済システムを指します。修理やリユースを通じて消費者が長期間製品を活用したり、製品を分解して新しい製品や素材の一部としたりするなど、循環利用を促進。廃棄物の発生や資源の採掘を抑えられます。環境に優しいだけでなく、持続可能な経済成長や新たな雇用の創出も見据えた産業モデルです。
推進機関として有名なエレン・マッカーサー財団は、サーキュラーエコノミーの3原則に以下を挙げています。
具体的な取り組みとしては、ステンレスやアルミ素材の容器で商品を届け、容器を消費者宅で再利用してもらうアメリカ・テラサイクル社の宅配サービス「Loop」、ユーザー自らスマホを分解してパーツを取り換えるオランダ・スタートアップのスマホ「Fairphone」があります。
サーキュラーエコノミーの発展は、2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に盛り込まれたSDGs(持続可能な開発目標)の達成にもつなげて考えられます。「持続可能な生産消費形態を確保する」「持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する」などを含んでいます。
参照:総務省|政策統括官(統計基準担当)|持続可能な開発目標(SDGs)