職人の緻密な技術が世界から注目を集める、日本の伝統工芸。
約1,300種類あるといわれる伝統工芸ですが、それぞれが長い歴史と受け継がれた高い技術力により、個性的で独特な魅力を持っています。
それでも、時代とともに変化する生活様式、後継者や材料の不足などが影響し、伝統工芸品の生産数は減少し続けているのが現状です。
そんな中、近年市場でしばしば見られるようになったのが、“伝統工芸×コンテンツのコラボレーション”という試み。
コラボしたことをきっかけに、伝統工芸の高い技術・その品質に、国内外から注目が集まっています。
また、コロナ禍におうち時間が増えたことで、日常生活をより豊かにしたいという思考が強まりました。
より品質の良い日用品への関心が高まったことも、高品質な伝統工芸品に注目が集まっている要因のひとつといえるかもしれません。
今回は、過去に人気を博した伝統工芸品とコンテンツのコラボ企画の事例を集め、コラボすることのメリットや販促企画としてのポイントなどを分析していきます。
目次
伝統工芸とコンテンツがコラボするメリットとは?
伝統工芸とコンテンツがコラボすることで、作り手、コンテンツホルダー、消費者の三方それぞれにメリットがあります。
伝統工芸側のメリット
生産効率が良く安価に手に入る現代の日用品、感染症流行による引き出物・観光地・百貨店など販路の縮小など、より手に取られにくくなってしまっている伝統工芸品。
そこで、業界の枠を飛び越えコラボレーションすることにより話題をあつめ、コラボコンテンツのユーザー層へと認知度の幅を広げることにつながります。
日本には世界中で人気のアニメも多く、アニメとのコラボをきっかけに日本の伝統工芸を世界に知ってもらえることもあるようです。
また、地域の特性を生かした工芸品においては、アニメの舞台となった地域、プロスポーツチームの拠点である都道府県など、産地とコンテンツの親和性を売りにして地域の産業の活性化にも貢献できます。
コンテンツ側のメリット
日本の伝統工芸とのコラボは「異色」コラボと話題になることも多く、
伝統工芸品には、品質が高く高級品として扱われるものも多く存在します。
オリジナルグッズに“日本の伝統工芸品”という付加価値を与え、普段とは異なる雰囲気のグッズを展開できます。
職人が手作業で生産するものが多いため、高価格帯商品や受注限定商品などのプレミアム感のあるグッズになります。
消費者側のメリット・近年の消費行動とのマッチ
伝統工芸品は大量生産に向かないものが多いため、数量が限定になることがしばしばあります。
コラボコンテンツのファンにとって、高品質かつ他ではなかなか手に入りにくい限定品は、ぜひとも手に入れたい魅力的なオリジナルグッズになるのではないでしょうか。
また、近年の消費傾向として見られる「応援消費」。
応援消費の流行にはさまざまな理由が見られますが、“復興”の意味を込めた応援も多く見られます。
伝統工芸産業の復興を応援する施策は、コラボコンテンツのファン・ユーザーを中心に応援の波が広がっていくと考えられます。
伝統工芸×コンテンツのコラボレーション事例
人気を博した日本の伝統工芸品と企業のコラボレーション事例をピックアップしました。
伝統工芸品の技術を存分に発揮したコラボグッズや、地域を活性化させるグッズ企画などが見られました。
伝統工芸×人気キャラクター
江戸切子
江戸切子とは、ガラスの表面を削り模様を施すガラス細工のことで、その技術は江戸時代後期頃からはじまったとされています。
江戸切子で表現される伝統的な模様は、それぞれが魔除けや縁起物などの意味合いを持っており、光の当たり具合で表情を変えるとても繊細なものです。
アニメ「転生したらスライムだった件」とのコラボグラスには、作中でキャラクターが使用するスキルのエフェクトや、キャラクターの髪型や性格が、伝統的な模様を使って表現されています。
伝統的な江戸切子のグラスにはあまり見られないような、伝統と現代アニメのコラボによるオリジナルの模様がみられます。
https://p-bandai.jp/item/item-1000117521
一方でゲーム「刀剣乱舞-ONLINE-」とのコラボグラスでは、“八角籠目文”と呼ばれる伝統的な模様の強弱をつけた線を使い、剣閃が表現されています。
各キャラクターを直接的に反映しているのは、カラーと底面に加工された紋のみと控えめですが、伝統の模様を主軸に刀剣男士の世界観が表現されています。
どちらもコンテンツの世界観を、伝統の技術を使って見事に表現しています。
昔ながらの模様を使ったり、新たな模様にチャレンジしたりと、同じ江戸切子でもコンテンツによって違った魅力が引き出されています。
九谷焼
九谷焼は、緑・黄・赤・紫・紺青の五彩で描かれる鮮やかな絵付けが特徴の、石川県産の陶磁器です。
江戸時代前期に誕生して以来、生産終了などの危機を乗り越え、現代の九谷焼作家へ受け継がれています。
独特の美しさ、力強さ、豪華さはそのままに、時代とともに現代芸術の要素を取り入れながらさまざまなデザインが生み出されています。
その自由な作品性から、九谷焼特有の画風でキャラクターを描いた企画も多く見られました。
ミッフィーやスヌーピー、ドラえもんなど、現代の人気キャラクターが九谷焼ならではの色彩で描かれることで、古典的な魅力を持ちつつも、かわいらしさや新しさが加わります。
キャラクターファンにはたまらない逸品です。
また、人気ゲームシリーズ「星のカービィ」の九谷焼絵付け体験イベントなど、キャラクターを通して伝統工芸品に触れられる企画も見られました。
キャラクターのファン層である若者やファミリー層に向けて、楽しみながら伝統工芸の歴史、技術を学べる「コト体験」を提供した事例です。
南部鉄器
南部鉄器は17世紀ごろから岩手県でつくられている、溶かした鉄を型に流して成型する鉄鋳物のことです。
黒く重厚な鉄瓶に、 “あられ”とよばれる細かい突起の列や、桜や菊などの花をモチーフとした模様が主流です。
そんな南部鉄器とのコラボで話題を呼んだのが、アニメ・「機動戦士ガンダム」シリーズに登場する敵機・ザクの頭部をそのまま形にした鉄瓶。
鋳型をつかった伝統の成型技術により、キャラクターを立体に表現し、“国産のザク”が誕生しました。
高価格な受注限定商品にもかかわらず、人気のあまり第8次受注の予約も完売しているほど、クオリティの高い伝統工芸品コラボとなりました。
ちなみに近年では、重厚な鉄らしい「黒」だけでなく、カラフルに着色された南部鉄器が登場し、その見た目のかわいらしさと日本の伝統工芸の品質が評価され、世界中で人気のある製品となっています。
地域の伝統工芸×スポーツチーム
伝統工芸品のコラボ企画には、地域の産業を活性化させる、という意味合いを込めて行われることも多くあります。
特定の地域をホームグラウンドとして活動するプロスポーツが、地域に根差した伝統工芸品とコラボすることで、地域全体を盛り上げていこうという企画も見られました。
東北6県の伝統工芸×東北楽天ゴールデンイーグルス
「がんばろう東北」のスローガンを掲げる楽天イーグルスが、地方ごと盛り上げようという企画で、伝統工芸品をつかったグッズを販売しました。
- 八幡馬/青森県
- 曲げわっぱ/秋田県
- 南部鉄器/岩手県
- 玉虫塗/宮城県
- 天童将棋駒/山形県
- 赤べこ/福島県
以上6県の伝統工芸品に球団ロゴをあしらうなど、チームの躍進と地域の活性を願ったグッズを展開。
中には、選手が使用するバットと同じ木材を使用した製品があるなど、チームと地域のつながりの深さも感じられました。
まとめ:伝統工芸×コンテンツのコラボグッズプロモーション
どの事例にも共通していることは、伝統工芸の良さもコンテンツの特徴も両方が対等に活かされているということです。
双方が対等であることで、伝統工芸になじみがない人々に魅力が伝わったり、優れた技術による表現がコンテンツの新たな魅力を引き出したりといったメリットが生まれます。
また、海外に向けて伝統工芸やコンテンツをアピールする際にも、非常に効果的な手法と言えるでしょう。
日本の誇るべき技術が新たなカタチで引き継がれていくことは、私たち日本人にとっても喜ばしいことです。
今後もどのようなコラボが誕生するか楽しみですね。
今回ご紹介した事例の他にも、織物や染物、陶磁器や漆器、人形など、豊富な品目があります。
全国各地でつくられているので、コラボに最適な工芸品が見つかるかもしれません。
現代のコンテンツと伝統工芸のコラボで、話題の異色のコラボにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。